古本にとどまらない池袋のワンダーランド

 一方で瀬戸さんは、店周辺の地域に向けた視線も持ち合わせている。「店から5分ほどのところには都立雑司ケ谷霊園があって、夏目漱石、永井荷風、泉鏡花、小泉八雲など、日本文学史を燦然(さんぜん)と輝く作家たちが眠っています。だから、彼らの著作は極力置くように心がけているんです。この地域で営む店であることを意識したい。特に、漱石の文庫は常にあるようにしています」

面出しのために作られた「ホンドラ1号」。頭
を使わず、視覚で選ぶために考え出された棚だ

 瀬戸さんがなぜ古本屋を営むのかも尋ねてみた。「人は、食欲や睡眠欲と同じ一次的欲求で何かを信じることがある、と養老孟司氏が本の中で言っています。きっと僕は、本を信じているのだと思います」

 古本の魅力は、時間と空間を超えるところだと瀬戸さんは言う。それでもなお、オーラを放っているのが古本だとも言った。「ただ僕は古本屋として、ロマン派にはなれません。古書はあくまで商品であり、それで飯を食っている。だから、かつて存在した本が時間を経て往来座の本棚に収まっただけ、と考えるしかないのです」

店の前に並ぶのは、比較的値段の安い古本の数々。小説の文庫本や絵本など、あらゆるジャンルが集結する

  そうは言っても、古本屋で出合った本のページをめくった刹那(せつな)は旧友に再会したような懐かしい気持ちになるも事実。まるでタイムマシンで過去に遡(さかのぼ)っていくような、SFの世界に入り込んでしまったようなあり得ないことが自分の身に起こるのも事実だ。特に往来座は、そんな不思議な魅力に満ちている。それもこれも全ては、赤いパンツが「絶望的」に似合う瀬戸雄史さんという男の仕業(しわざ)なのだ。

こしょ おうらいざ
東京都豊島区南池袋3-8-1 1F
📞03-5951–3939
営業時間:午後12時~同10時(月~午後6時)
定休日:なし

文・今村博幸 撮影・岡本央

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