懐かしくも新しい秩父のパイオニア

 しかし当初は、苦難の連続だった。まず、材料の調達がままならなかった。「正直言うと、あの当時、秩父でパーラーができるか不安はありました。スパゲティの麺すら仕入れるのは難しかったし、生クリームなんて牛乳屋でも知らないような時代でしたからね」。スパゲティの麺も、パフェに使うアイスクリームや生クリームも、東京で働いていた頃に取引のあった問屋などを回って頼み込み、やっと調達できるような有様だった。もうひとつ大変だったのは、客がメニューを理解してくれなかったこと。「フラッペってなに? パフェって?と毎日のように聞かれましたよ」

渋いフローリングの床とレンガを多用し、統一感のある店内は、秩父にいることを忘れる。落ち着ける空間を作り上げているのが見事だ

 ほどなくして、店は客でいっぱいになる。「食事ができたのが大きかったと思うんです。スーパーでも弁当は売ってなかったし、コンビニもない。だからランチ時になると、食事をしに来てくれました。夕方はパフェを食べたり、コーヒーを飲んだり。その頃になると、パフェがどんなものなのか、わかってくれるようになりましたからね」。この頃になると忙しさは加速する。昼時や夕方になると、客が店の前に並ぶことも少なくなかった。「私と女性従業員の2人でやってましたから。しかも作るのは私一人。てんてこ舞いでした」。当時を懐かしむように小泉さんは笑った。「でもその分、やりがいもありました。自分がパイオニアだって自負もありましたからね」

ナポリタンスパゲティ(850円)は、オリジナルのドレッシングがかかったシャキシャキの野菜サラダとコーヒーゼリーのデザートがつく

    開店当初から人気を集めたメニューの一つが、スパゲティである。「ミートソースも仕込みからやりますが、ナポリタンはうちの看板ですし、自信もありますよ」。イタリアンソースと小泉さんたちが呼ぶソースは、手間がかかっている。みじん切りにしたニンジンと玉ねぎなどをよく炒め、調味料とケチャップで煮込んだオリジナルだ。食べてみると、焼けたケチャップの香ばしさと、マッシュルームの歯触り、ピーマンのほろ苦さ、玉ねぎの甘さなどが、絶妙のハーモニーを口の中で奏でる。特に、甘みと酸味に奥行きがあるケチャップは、一度食べたら忘れられない深い味に仕上がっている。正真正銘の「昔ながらの」ナポリタンだ。


 淳さんは、イタリアンレストランで修業
 積んだ。「僕が作っていた料理とは全く違い
 ますが、その分かえって面白みがあります」

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