直せぬオーディオ機器はない 客の笑顔に励まされ

 岩瀬さんとCMJの技術者たちには、「絶対に直す」という信念がある。「持ち込まれるオーディオの95%以上は直せると思います。でも実は、古いものの方が直しやすいという部分もあります。なぜなら、集積回路を使わず、トランジスタ、コンデンサー、抵抗などのディスクリート(単体素子)を組み上げて作ってあるからです」。修理するときには、それらコンデンサーなどのハンダを外してチェッカーで調べてから、再度ハンダ付けして戻す。客に『遅いよっ』て言われることもあるが、『一つひとつのディスクリートのハンダを外して付けるだけで何時間かかると思う』と客に言ってしまうこともある。「私が言いたいのは、直せたのは技術者が執念をもってやったからと言うことなんです」

 音楽とオーディオに対する岩瀬さんの愛着は、中学3年の時、「9500万人のポピュラーリクエスト」をラジオで聴き、流れてきたビートルズに衝撃を受けたことに始まる。その後は、ボブ・ディラン、さらには、ジョン・コルトレーン、オスカーピーターソンなどのジャズへと傾倒していく。就職先は、ソニーの関連会社が最初で、技術者として雇われた。やがて第一家庭電器へと転職し、コンポーネントを売り出してから、ずっとオーディオに携わってきた。

セパレートタイプのふたを開けると、ターンテーブルとチューナーが顔を出す

 当時の売れ筋はレコード針のカートリッジだった。「そのカートリッジが復活し始めてるのはうれしいですよね。オルトフォンやオーディオテクニカなどのメーカーが、しっかりした製品を作ってます。同時に、レコードも復活し始めてますよね。ソニーもレコードを復活させました。すぐやめちゃいましたけど」。これは、まだまだレコードを楽しむことが可能であることを意味する。

 そんな岩瀬さんの本業(オーディオ修理は趣味だと本人は言う)は、生前整理や遺品整理を請け負う「一般社団法人日本リユース・リサイクル回収事業者組合」の副代理理事である。原点にあるのは、音楽やオーディオ機器に対する慈しみにも似た感情だ。「一生懸命作って売った商品が、直せないとただの重いだけの粗大ごみになっちゃう。それは、本当に忍びない。だったら、オーディオ修理の会社を作っちゃおうと考えました。7年前です」。リユースできるものは、直して戻す。粗大ごみを減らして、まさに考え方は今で言う「SDGs」だと岩瀬さんは笑った。

オーディオアクセサリーの高級ブランド「サ
エク」が作ったトーンアーム。実に美しい

 オーディオ修理の喜びは客の喜びに比例すると岩瀬さんは言う。「修理してお届けしてセッティングし音出しを確認します。すると、お客さまは『あっ、音が出た!』って叫ぶんです。心の中では『そりゃそうだよ。直して持ってきたんだから』って思いますよ。ただ、お客さまのうれしい顔を必ず見られる。その表情を見ただけで、頑張ってよかったなって思いますよ」

 ヴィンテージオーディオの音はどうか?と尋ねると、岩瀬さんは、「昔の方が断然いいよ」と即答した。戦後は、本当に、すごい製品を作っていたとのだと言う。「昭和40〜50年代ぐらいには、時代の最先端にいたもっとも優秀な技術者がオーディオを作っていたと言ってもいいと思います。彼らは全員夢を持ってて、いつかはJBLやマッキントッシュに勝つんだって思いを胸に秘めていました。『そんなの無理だ』って笑われたこともありますが、でも彼らは、彼らなりに心血を注いで頑張った。その証拠に、いまだにきちんと直せばいい音が出るような、しっかりしたものが残っているのです」

昭和の名機の一つテクニクスRS -1700(オープンリール)デッキ。
1500、1800なども発売された。昔のオーディオらしく、とても重い