直せぬオーディオ機器はない 客の笑顔に励まされ

CMJヴィンテージオーディオ修理工房(さいたま市)

retroism〜article127〜

 時を刻んだ年代物の宝の山(コンポーネント)が雑然と並ぶ光景に圧倒される。

 その名だたる機器を横目に薄暗い階段を上がって、2階の修理工場へ足を踏み入れると、技術者の鈴木高広さんがニッポノーラの蓄音機の修理にかかっていた。「この機械に合うサウンドボックスを選んで、取り付けているところです」。作業を見ると、サウンドボックスについている針がレコードにかかる重さを調整するために、細い棒のようなものが見える。「竹の棒をつけて、重量を調整しているんです。部品がなくて、これで代用するしかありませんでした」。鈴木さんの目は真剣そのものだった。

電気式の蓄音機を直す鈴木さん。やはりうれしいのは、客の喜ぶ顔だと言った

 「CMJヴィンテージオーディオ修理工房(以下CMJ)」の取締役(実質上の責任者)岩瀬勝一さんが、口をへの字に曲げて苦笑しながら言う。「元々は電蓄(電気蓄音機)は扱ってなかったんですけど、注文されるとついつい受けちゃうんですよ。しかもこれは(ニッポーラの蓄音機)、お客様の奥様が嫁入り道具として持ってきた思い出の品ですから、『なんとか直してあげたい』という気持ちが先に立っちゃって。基本的には、買って6年以上経ったメーカーが直せないもの、JBLやマッキントッシュ、その他のメーカーの製品を直しています」

 CMJには、まさにヴィンテージと呼ぶにふさわしいオーディオが所狭しと並んでいた。例えば、マニアの間では最高峰と言われている、イギリスのオーディオメーカー・ガラードのオートチェンジャー付きターンテーブルが無造作に置いてある。「52年間オーディオに関わっていますが、本物を見たのは初めてです」と岩瀬さんに言わしめた珍品でもある。さらに、今ではほとんど見かけなくなった、家具調のセパレートステレオ、オープンリールデッキなど、昭和のオーディオショップを思わせる品々が並ぶ。そういえば、当時は、テレビも家具調で、家の中心になる場所にデンと置かれていた記憶をお持ちの方々も多いだろう。中でも驚いたのは、マッキントッシュのスピーカーである。「マッキントッシュといえば、アンプというイメージがありますけど、一時期、スピーカーにも力を入れていた時期があって、その当時のものです」

写真手前と一番奥に見えているのがマッキントッシュ製
2発の30㌢のウーファーを積んだスピーカー。挟ま
れて
いる背の高いスピーカーはツィーターが23個ずつ付いて
 いる。4本一組、音は「リアルオーケストラ」と岩瀬さん

 修理には、ヴィンテージだからこその苦労が絶えない。「蓄音機もそうですが、完全に機械なんです。かつてはやったカセットデッキも同じです。いわゆる『電気製品』とはちょっと種類が違うと考えています」。簡単ではないが修理は可能だと岩瀬さんは胸を張る。部品がないから直せないというのも、岩瀬さんに言わせれば、逃げでしかないのだ。不敵な笑みを浮かべながら岩瀬さんが続ける。「鈴木が手がけていた電蓄も部品がないから竹を使いました。はっきり言って、ここに持ち込まれるのは、部品がないものがとても多いんです。ないものはお客様の了承を得て自分たちで作ります。大きなものは小さくできるのでネットで探したり、似たような部品を集めて加工したりとか。削れるものは削って、ちゃんと音が出るように工夫します。そのために、旋盤の機械まで入れています。材料を削り出して、なんとか元に戻そうと頑張ります。オーディオ修理屋で、旋盤を持っているのはウチぐらいじゃないでしょうか」

テクニクスのフルオートプレーヤーSL-15。
 10曲のプログラム選曲機能が搭載されている