旅好きの遊牧民が集うユニークな専門書店

旅の本屋のまど(東京・西荻窪)

retroism〜article122〜

 我々は「時間」の中で彷徨(さまよ)っていると言える。常に意識しているわけではないが、会社にいくとき、クライアントとの約束、友人との待ち合わせなど、日常においても時間の存在を認識する状況はあるが、そんな中で最も楽しいことのひとつは、旅にまつわる「時間」だろう。個性あふれる店が軒を連ねる西荻(西荻窪)の中でも稀有(けう)な存在の書店「旅の本屋 のまど」との出合いは実に喜ばしい。店主の川田正和さんが控えめに言う。「おそらくですが、『旅の本屋』と名乗った実店舗は日本では唯一ではないでしょうか」

柔らかなタングステンの光の下で、旅好きの人が手にするのを待っているようで、見ているだけで心落ち着く店内

 若い頃から海外を渡り歩いてきた川田さんは、アメリカやヨーロッパで、旅を前面に押し出した多くの書店を見てきた。「欧米の人たちにとって、1カ月の休暇は当たり前で、旅が人生のサイクルの中に組み込まれていると思うんです」。長期でどこかに行くとなると、観光地をめぐるだけでは、時間を持て余してしまうし、飽き足らない。だから、自分の好きなもの、例えば文学や宗教、スポーツや音楽など、その国や都市でしか味わえないことを体験してみたい。事前にやっておきたいのは、基本的な知識を本などから仕入れておくことである。加えて、家に帰ってからは、実際に見たり聞いたりしたものを文字や写真によっておさらいすることで旅が完結するのだ。つまりは、旅と一口に言っても、「準備、実行、思い出に浸る」という一連の時間の流れが存在する。そこで得た知識や体験は、自分の中に蓄積されていき、人生をより豊かなものにしてくれるはずだ。「その手助けになれるような店になればと願っています」と川田さん。すかさず、「でも基本にあるのは、僕自身が旅と本が好きというのがあるんですけどね」と笑った。

ロシアからヨーロッパ関係も充実。新刊本と古本が交互に並ぶ。見分け方は、背表紙の丸いシール

 「最近、西荻では、若い女性が増えて、街の雰囲気もだいぶ変わりました」。個人経営のアンティークショップも多く、ちょっと一癖ある店を目的に陽気にかっ歩する人の姿も西荻では少なくない。「お客さんも個性的ですよ。ガイドブックよりも、どこかの国の遺跡が見られる古本やアンティーク目的の人が多いのも特徴です。当店に寄っていただけるのも、そんな人たちです。新しい情報が載っている本も探すけど、イギリスの古い街とか、ヨーロッパの小さな町に面白みを感じる人が少なからず遊びにくるんです」

あらゆる本がぎっしりと詰まった棚とは対照的なレジ横の面出しでの見せ方が唐突で面白い

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