昭和グッズと熱き心に触れ、極上の珈琲を味わう

喫茶 昭和堂(横浜・二俣川)

retroism〜article107〜

 想(おも)い続ける力は、なによりも尊い。積もっていく憧れや願望の先には、ふた通りの結果が待ち受けていて、だんだん大きくなって成功に結びつけば喜ばしいし、いつの間にかしぼんでしまい、成し遂げられずに終わってしまう不安を抱えて過ごさなければならないのも現実だからだ。

ストロングコーヒーは爽やかな酸味のチーズケーキとベストマッチ。「元々私のブレンドがストロングだったので、頼まれると嬉しい」と畑中さん

 もともと昭和に作られたグッズが大好きで、若い頃からコツコツと集めてきた。「喫茶 昭和堂」(以下、昭和堂)店主の畑中義之さんは、それらを飾って喫茶店を開きたいとずっと考えてきた。畑中さんにとって、喫茶店は憧れであり愛する場所でもあった。「学生の頃から入り浸ってました。コーヒーのおいしさに目覚めたのも、初めてジャズを教わったのも、隠れてたばこを吸ったのも喫茶店でした。つまり、『大人の階段』そのものだったのです」

1日5品限定のコーヒーゼリーやその場で作るアイスコーヒーなども畑中さん一推しの逸品が味わえる店内。魂なきものはひとつもない

 香り高い空間には大地に根を張ったような文化が存在する。大学を卒業した時、一般企業に就職するか喫茶店を開くのか、という選択があったと畑中さんは振り返る。結局、選んだのは前者だった。しかし、喫茶店への想いは消えることはなかった。会社員をしている間、おいしいと言われる店を訪れて、マスターがどんな淹(い)れ方をしているのかをつぶさに観察した。そんな生活が、定年退職まで続いた。「店をやりたい気持ちは常にありましたが、僕自身が未熟でなかなか踏み切れませんでした。実際に、おいしいコーヒーが淹れられる自信もありませんでした。だから、喫茶店という空間を楽しむことしかできなかったのです」。定年退職が近づくと、温めてきたアイディアは、少しづつ固まっていき、最終的に喫茶店開業を決意する。「懐かしい雰囲気の店というアイデアは最初からありました。場所は田舎だったり、古民家だったり、ビルの地下もいいなとかいろいろ考えました」

ダッコちゃん。膨らんだまま残っているものは少な
 い。黒人差別が問題にならなかった頃のおもちゃだ。

 見つけたのが今の場所だった。昭和の名残を感じさせる小さな町の片隅にある、半分ぐらいシャッターが閉まっているアーケード商店街に物件を見つける。最終的には、ほぼ理想的な場所に店を開くことができた。畑中さんの想いはかなえられたのである。40年弱を超えて焦がれ続けた想いがいい形で実現できたと、畑中さんは満足げだ。「想いって、強く信じればなかなうんですよね」。自分の店に出勤するのが楽しみで仕方ないと畑中さんは言う。「通う道すがら、思わず鼻歌混じりになるほどですよ」

店内には古い映画のポスターをはじめ昭
和のグッズが所狭しと並べられている

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コメント

  1. Keiji Yamazaki より:

    一歩ドア開けるとタイムスリップするような昭和堂さん。店内の品々を見てるといろいろな思いが横切りホッと癒してくれる至福の時間です。
    マスターの煎れる珈琲は絶品。

    • SHIN より:

      レトロイズム〜retroism visiting old, learn new〜をご愛読いただきありがとうございます。コーヒーはもちろんのこと、フードや飾られているモノに対するマスターの深い愛情が感じられますね。