昭和へGO! あの頃に戻れる鶯谷ゲートウェイ

 ごく単純にわかりやすく言えば、「音楽好き」。音楽と光があふれるこの店を営んでいること自体、彼にとって必然だ。「だから今、僕は幸せです」と北島さんは、満面の笑みで言う。「人生全て、音楽に結びついているとも感じています。リズムも大事です。悲しかったり嫌なことがあったり、もちろんうれしくてしょうがないときも、ぜひ店に遊びに来てください」。リズムと音と光が、すべてを解決してくれることだろう。

 もう一つ、Lover’s開店当時から大切にしていることがある。出会いを提供する場所であるということだ。「ディスコ全盛の頃には、当然のようにSNS(会員制交流サイト)などありませんでした。人と出会うのは、誰かに紹介されるか、合コンぐらい。ディスコは、酒を飲んで踊る場所ですが、出会いの場所でもありましたよね」。目的はどうであれ、ディスコという空間は、当時の価値観からすれば、いかがわしさなどない極めて健全な場所だった。女性の気を引きたい男たちがおめかしをして訪れ、喜怒哀楽のドラマが生まれる。この店を開く時、北島さんが思い描いていた理想の場所がそれだった。

入場料を払うと、2ドリンクが付いてくる。当然のようにボトルキープも可能

 男女の出会いだけではない。Lover’sには、さまざまな人生を抱えた人たちが集まってくる。妻に逃げられたその日に、やけくそで飲み歩いてここにたどり着いた客は、「救われた」とつぶやいた。「彼は『有り金全部使っちゃう』なんて言って、毎日来るようになりました。でもまた、性悪女に捕まっちゃって……」と、北島さんが苦笑する。

 一方で、奥さんに先立たれた客が店を訪れたこともあった。彼は、車椅子の生活になってしまった妻と、毎日このあたりを散歩していた。通るたびに入ってみたいと彼女が言っていたが、地下までの階段が下りられない。やがて妻は息を引き取った。「亡くなった奥さんの遺影を持ってきて、『縁起悪いけどいいですか』って。もちろん喜んで受け入れましたよ」。北島さんが歩んできた波乱に満ちた半生で培った人間としての幅や深さがあったからできたことだ。もともと車屋(カーショップ)を営んでいた北島さんは、店を潰したことで、あらゆる事業に関わるようになる。「最初に車屋でお金でつまずいた。金のトラブルは、親兄弟でも情という観念が取っ払われてしまうんです。でもね、そんな中でも、ありったけの人情で接してくれた人が少なからずいたんです。うれしかったなぁ」。そんな経験が、北島さんの胆力の糧となり、現在の店へと繋がった。店を開いた時には、スナックのマスターで生きていけたらいいと思いました。僕らの世代が聴いていた本当に良かったもの、当時流行っていた曲をかけようと考えていました」。北島さんの目は、薄暗い店内でもわかるほど、きれいに澄んでいた。

年季を感じさせる外観。ここから
階段を下りれば昭和が待っている

「来るお客様は全員大人です。人生を背負っていらっしゃる。そんな人たちのために、リフレッシュできる遊び場を提供したいんです。本気で気持ちよくなったり、なにかの助けになればと。遊びで悲しむ人はいないと思いますから」  

 熱狂的なファンも多いLover’s。鶯谷に、「ディスコいまだ健在なり」である。

かようきょくかふぇ らゔぁーず
東京都台東区根岸1-1-16 銀星ビルB1
📞03-5808-4343
営業時間:午後7時〜午前1時(時短要請中は変更あり)
定休日:不定休
https://r.goope.jp/lovers

文・今村博幸 撮影・JUN

 

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