よみがえる青春の日々 懐かしのラジカセがズラリ

ダビーマッド(東京・渋谷)

retroism〜article92〜

   まず初めにラジオが誕生した。その後、記録メディアとして磁気テープ、それを再生するためのテープレコーダーが世に出た。やがて記録メディアはカセットテープに、再生装置はカセットテープレコーダーに進化した。

ラジカセが整然と並ぶ店内に入った瞬間、カセットテープで聴いた懐かしい曲が頭の中をを駆け巡った

 1960年代終わりからから70年代にかけてラジカセがちまたにあふれた。その存在感は圧倒的だった。東京・渋谷にある「ダビー・マッド」は、そんな古き良き時代のラジカセの魅力を思い出させてくれる数少ない専門店だ。あらゆるタイプのラジカセが、棚に整然と並ぶ様は圧巻だ。店主の浅田健治さんが言う。「数えたことはありませんが、常に100台以上はあると思いますよ」

ラジカセ「ACTAS2800」は、1976(昭和)年に東芝
から発売された。野外録音用に作られたヘビーデュ
ーティーな面構え。上についた集音マイクが特徴だ

 一つひとつを見ていくと、それぞれのデザインに個性があって面白い。ウーファーとツイーターがついた巨大なゲットーブラスター(大型ラジカセ)があるかと思えば、アナログのイコライザーが前面についたものなど、メーカーによって創意工夫がなされている。実際に見たことのあるなしにかかわわらず、かなりの確率で、既視感を体験するのも楽しいのだ。

子供用に作られたかわいいミニラジカセも豊富。見てるだけでホンワカ気分だ

「たぶん、僕らの年代(40、50代)ならば、音楽を聴くメディアとしてはカセットテープが多かったんじゃないですかね」。確かにそうだ。自分の家にもあったし、友人の家へ行けば必ずラジカセがあった。大きなオーディオセットが居間にあったとしても、自分の部屋ではラジカセを使った。レコードプレーヤーにラジカセを繋いで録音し、実際に聴くのはカセットテープだった。

 勉強をしているふりをしながら、自分の部屋で深夜放送を聴くのもラジカセだった。FMレコパルなどのFM情報誌で番組をチェックし、ダイレクトにテープに録音することも容易になった。確かに、当時一番身近なメディアはカセットテープだった。だから、傍らにはラジカセが常にあったのだ。「僕の場合も、歌謡曲を録音したり聴いたり、もちろん深夜放送もラジカセで聴いてました」

ラジカセ史に燦然(さんぜん)と輝くソニーの名機「CF-1980」はスタジオシリーズの第1弾として発売された。最大の特徴はミキシング機能を持つことだ

 多機能化・大型化が進むに連れて、装備されているジャックも多彩になっていった。「レコードプレーヤーやギターのアンプ代わりにも使えます。そんなふうにして、使い倒してましたね」。今なら、ブルートゥースのアダプターを付ければ、スマートフォン(スマホ)から操作して音を出すこともできるという。拡張性の高い「機械」もあるのだ。そう考えると、当時の小・中学生、高校生にとってその存在はまさに相棒だった。今の子供たちが常にスマホをいじっているのにも似ている。「みんなそうだと思うんですけど、自分専用のおもちゃでしたよね。必ず枕元にはおいてあった感じです」

バカでかいゲットーブラスターも多数。アメリカの黒人たちが肩に乗せてリズムを取りながら歩く姿は衝撃的だった

 魅力のひとつはアナログ感満点な容姿だ。一昔前の機械が持っている姿と言い換えてもいい。ラジオ局選択用の大きめのダイヤル。カセットテープを操作する指で押し込むタイプの早送りやプレイボタンも「機械」そのものだ。それらを操る人の動作、例えば、イジェクトボタンを押すと、カセットテープが収まっているカセットドアが斜めにパカッと開く。再生時に「ガッチャン」とプレイボタンを押す動作などなど、機械を扱っている感覚は、自然と気分を高揚させた。

店に並ぶラジカセをじっくり眺めると、デザインや機能を争った各メーカーのプライドが透けて見える

「最近でも、みんなで音楽を聴いている状況を映像や画像で見せたいときにラジカセが使われることがあります。再生装置とそれで音楽を聴くことを表すアイコンになっている部分があると思うんです」ラジカセを置くだけで、「みんなで音楽を聞いている感じ」が画面から醸し出されるのだ。

 カセットにはありがたみがあると浅田さんは言う。最近の20代、特に女性はカセットテープの形状を「かわいい」と表現する。「なんだかんだ言って、みなさん形あるモノが好きなんですよ」

渋谷公園通りの裏、ヴィンテージマンションの一室に同店はある

 アナログな機器や道具には、実存感がプンプンと香る。「アナログとは?」の問いに浅田さんが答えた。「お金と場所を食います。今となってはぜいたく品じゃないでしょうか」

 帰り際、「昭和の遺産」がまぶしく映った。

だびーまっど
東京都渋谷区神南1-14-1 コーポナポリ203
📞03・5941・6242
営業時間:午後2時〜同7時
定休日:不定休

文・今村博幸 撮影・JUN

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