レトロ散歩 其ノ拾

広尾商店街(東京・渋谷区)

retroism〜article91〜

東京メトロ広尾駅から大使館が点在する有栖川宮記念公園周辺へ向かう道にはこじゃれたカフェが並ぶが、途中の路地を入ると時間が止まっている理髪店があった

同じ路地には、トタンが貼られた家屋も残る

広尾ガーデンの前には年代物のシトロエンHバン。車内にはごみがあふれていたが、ナンバープレートは付いていたので動く模様

電線がまだ地中に埋められることなく、むき出
しになっている。さらに電信柱は傾いていた

ビルの1階にある銭湯。正面からは見えづらいが、
 横の路地を入って上を見ると、煙突がそびえる  

広尾商店街裏の路地には、モルタル塗りの家が並ぶ。流れる空気は表通りと別物だ

魚屋の隣にある3階建てのビル。人が住んで
いる気配がなんとも不思議な雰囲気を醸す 

 

今どきの写真屋の2階の壁は看板建築風。カーブを描く窓枠がモダンだ

商店街の中にある鮮魚店。生鮮食料品の店にある活気は、いつの時代も変わることはない

三味線造り一筋の伝統工芸士・真島さん。
思わず引き込まれそうになる笑顔が素敵だ

三味線の皮を張るのりはいまだに米粒を使って作られているという

昭和の面影を色濃く残すおもちゃ屋も現役。ただただそこにとどまっているという風情

「髪結」として昭和初期に創業した美容室。新しめのイタリアンレストランや近代的なビルに挟まれていて不思議な感じだ

完全に崩壊している木造の家屋。東京五輪・パラリンピックを告げる旗とのコントラストにしびれる

真っ黒いツタの絡まるビルはお化けのようだ

広尾商店街の恵比寿寄りにある路地裏。古民家を改装した小料理屋がポツリ  

あとがき

 広尾橋の交差点に立つと、明治屋のある広尾プラザ、その前には広尾ガーデンが見える。どちらもセレブな人が行き交う場所だ。有栖川宮記念公園方面に向かえば、1962(昭和37)年にオープンした老舗、世界各国の食材を集めたナショナル麻布スーパーマーケット、さらにはフランスやドイツの大使館が置かれ、外国人の姿も多い。昭和の日本の風景とはほど遠いインターナショナルなイメージだ。

 しかし、一歩路地へ入ると、状況は一変。昔ながらのモルタル塗りの家屋が並ぶのだ。広尾商店街のメイン通りにも、古くからの商店がチラホラ。昭和から変わることなく有り続けるこれらの店が、もともと街に存在していた魅力を語り継いでいるようだ。間口が一間ほどしかない鮮魚店、飾り気のない花屋、今どきの子供は決して喜ばないであろうおもちゃ屋などなど、その存在感だけで価値を見いだせる店がしたたかに残っている。

 もともと広尾(現在の広尾5丁目あたり)には、瓦屋、ブリキ屋、左官屋、水道屋、電気屋、ガラス屋、タイル屋、ペンキ屋、畳屋――、職人が多く住む街だった。さらに、100年以上続く三味線屋もいまだ健在だ。主人であり伝統工芸士でもある真島久雄さんは御歳71歳。元気ではあるが、仕事の手を休めて言った言葉は寂しそうだった。「三味線に張る皮が年々少なくなっているんだよ。私ももう年だし跡継ぎも居ない。この店もあと3年ぐらいかな……」

 昔ながらの店や風景の中には、人の営みが息づいている。彼らが発する言葉は重い。昭和の風景は確実に減っている。しかし、それを心に刻むことはまだ辛うじて可能だ。少なくとも、この街で散歩を楽しむなら、脈々と横たわる歴史を感じたい。そう願わずにはいられないのだ。

文・今村博幸 撮影・JUN

 

 

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