レトロ散歩 其ノ玖

あとがき

 時代を感じさせる要素のひとつに、「くすみ」がある。比較的整備されている「巣鴨地蔵通り商店街」にも、いい具合にくすみが残っていて、街の時間を上手に止めていた。

 シンボルである高岩寺(とげぬき地蔵)は、焚(た)かれた線香によって境内が絶妙にくすんでいる。くすみは他に、パーマと書かれた看板、防犯連絡所と書かれたアルミ製の表示版、かつて紙を扱っていたと思われる店のコクヨの看板など、小奇麗に改装した店の合間に現れる。昭和7年創業の「帽子専門の店・タムラ」が放つくすみは、シブさ以外の何物でもない。

 商店街を都電荒川線(東京さくらトラム)の庚申塚へ向かうと、停留所の少し手前にある化粧品店のくすんだガラスから店内が見える。並んでいたのは、ブラバス、エロイカ、バルカン、アウスレーゼなど、かつての大人たちが愛用していた男性化粧品だ。少女が口紅に憧れるように、それら化粧品の匂いに男の子は憧れた。父親がひげそり後に顔にたたくように塗るローションや、髪をなでつけるポマードなど、子供にとっては禁断の世界だった。中学生ぐらいになると、父親の化粧品をこっそりつけたりもした。それだけで大人になった気がしたものだ。

 くすみは、古いものの象徴ではない。きちんと時代を経て生き抜いてきた、本物の証しなのである。

文・今村博幸 撮影・SHIN

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