時をかける昭和の名曲カバーにココロ弾ませ!

コラム其ノ玖(特別編)

retroism〜article79〜

   「今春が来て君はきれいになった」

 誰もが認める名曲「なごり雪」のサビのフレーズだ。別れ際の刹那(せつな)、去っていく恋人の表情とともに、彼女の存在の大きさに改めて気付かされた主人公の心情がよく表われている。この楽曲が最初に世に出たのは、1974(昭和49)年。かぐや姫の大ヒットアルバム「三階建の詩」に収録された。

音符の並びは同じでも、カバー曲になると、まるで違う世界が展開される

 季節外れに降り出した雪が舞うホームを背景に、汽車が発車する時間を気にする主人公と田舎へ帰る恋人との心象風景がじんわりとにじむ歌詞。加えて外連(けれん)なく心に染み込んでくるポップなメロディーは、多くのファンを魅了した。それまで作詞に専念していた正やん(伊勢正三)が曲も手掛けたのがこの曲と「22才の別れ」だった。作曲を提案した南こうせつが、そのクオリティーの高さに舌を巻いたと言われ、大ヒットした「神田川」の第2弾シングルにと構想していた。アルバムは同年3月にリリースされたが、同じ年の12月、イルカによるカバーバージョンがシングルで発売され、翌年にかけてオリコン集計で55万枚のセールスを記録、累計では80万枚の大ヒットになった。

 イルカに始まりほぼ毎年誰かにカバーされてきた。1976年には天地真理、82年の第33回の紅白歌合戦では榊原郁恵がNHKホールにて生のステージで披露した。2000年代に入ると松浦亜弥、平原綾香、徳永英明、夏川りみ、09年には坂本冬美や中森明菜も、14年には桑田佳祐、平井堅が次々に歌った。

 あらゆるミュージシャンがカバーし続けているのには理由がある。この楽曲がいまだにまったく色あせることがないからだ。いつ聴いても新鮮で、歌詞やメロディーが陳腐化しない。あたかもクラシック音楽のように、同じ曲をありとあらゆるオーケストラが繰り返し演奏する。それぞれには指揮者の解釈がガッツリと盛り込まれているから、そのたびに新しい感動がある。それと同じ趣をこの曲は持っているのだ。

小さな体のイルカが持つギターは、心持ち大きく感じた

スポンサーリンク

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする