真空管が奏でる「ラックスマン節」に酔いしれる

 いまだに、ラックスマンのトランスは評判が高いが、当初より各方面から注目されていたらしい。「阪神甲子園球場のPA(放送設備)を手掛けたり、NHKから一緒にアンプを作ってほしいという話もあったそうです。でも、我々は先代から民生品に対する思いが強く、個人が楽しむ趣味性の高い製品に力を注ぐことが社是として根付いていました」

 そんな中、発売されたのがSQシリーズである。以来、プリメインアンプで真空管を使ったものは型番がSQで始まる。ゴールデンナンバーはSQ38。初代が1963年に、64年にはSQ38Dが発売され、オーディオファイル(マニア)たちの気持ちをガッチリとつかんだ。中でも、エポックメーキングとなった機種が70年に発売されたSQ38FDだった。「名品との評判を得ていたトランスOY-15型を搭載し、我々と共同でNECがチューンアップして作った真空管が使われました。自信を持って世に問うたこの機種の魅力は、現在でもお使いになられている方が多いことからもお分かりいただけるでしょう」

「ヒゲ文字ロゴも、きれいだし格好いいと私は思ってます」と言い切る小柳さんの全ての言葉には、自社ラックスマンへの愛があふれていた

 ラックスマンは真空管を増幅器に使うアンプを終始作り続けている。小柳さんによると、1958年に第1号機を発売して以来、製品のラインアップから、真空管アンプがなくなったことは一度もない。「魅力は、音にもありますが、トランジスタ製品に比べてメンテナンス性の悪さ、平たく言うと手間がかかるところも楽しいんです」

 かつては、メーカー(特にエンジニア)と小売店、そしてユーザーの間には濃密な信頼関係が存在していた。だからメンテナンスや故障が面倒だとしても、それを甘んじて受け入れられたし、むしろそこを楽しむユーザーが少なからず存在したのだ。「そういう付き合いの中で切磋琢磨(せっさたくま)してきたのが、民生品を作る我々メーカーでした。ラックスマンも小売店やお客様の叱咤(しった)激励を受けて性能を上げてきたんです」。私見だと前置きをして、長妻さんが語る。「我々が作っている製品は、効率とか性能だけでは評価できないものです。値段だとかそういうものから逸脱したプロダクト(製品)であるべきだと考えています」。長妻さんは自信に満ちた表情で続ける。「音響機器って、人生を共に歩む相棒みたいなものですよね。強い思い入れがある製品、理屈で割り切れないものですよね」。そんな長妻さんの言葉を受けて小柳さんがさらに思いを語る。「もっと効率よく、お求めやすい価格で作れる会社はあります。でもそれをやったら、ラックスマンである理由がなくなってしまいます」

38シリーズの伝統である「ロ」の字型の木製シャーシで覆われたプリメインアンプが、壁一面に並ぶ。眺めは爽快としか言いようがない

 趣味性の高い世界は、ラックスマンという昔ながらの思想を守り続けているメーカーによって今後も存在しうることだろう。「ミュージシャンが自分の楽曲を録音する前の段階、演奏に至るまでの演奏者の思いまでわかるような音を提供できればと考えています」

 老舗アンプメーカーの音作りには、伝統と技術に裏打ちされた、憎らしいほどのフィロソフィー(哲学)があった。感嘆すべきはその哲学が途切れることなく脈々と受け継がれてきたことだ。だからこそ、多くのオーディオファイルたちは、ラックスマンという名前にひれ伏せざるを得ないのである。

らっくすまんかぶしきがいしゃ
横浜市港北区1-3-1
📞045-470-6980

文・今村博幸 撮影・JUN

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