真空管が奏でる「ラックスマン節」に酔いしれる

ラックスマン(横浜・新横浜)

reroism〜article77〜

 自社製品に自信と誇りを持つことは、ごく当たり前なはずだ。しかし、現代のモノづくりの現場では、必ずしも当然ではないように思えてならない。街には、プライドを感じない商品が氾濫(はんらん)している気がする。

真空管ステレオパワーアンプMQ–300。30年以上前に発表されたMB-300をモチーフに300Bならではの音質にこだわった

 そういう意味で言えば、「ラックスマン株式会社」は、実に昔気質(かたぎ)のメーカーと言えるだろう。話を伺った国内営業部部長である小柳剛之さんや、今のラックスマンの音を決める責任者であり取締役開発部部長の長妻雅一さんたちが心に抱き続ける、自社のアンプに対する思い入れや愛情は、彼らの言葉の端々からいや応なしに伝わってくる。長妻さんが自信に満ちた表情で話す。「音作りで私たちが最も重要視しているのは、長時間聴いていられること、音楽が終わった後でも、もっと聴きたくなるような音です」

初期のステレオプリメインアンプの代表
作SQ-5B。ラックスマンオリジナルのト
ーンコントロール回路を既に備えていた

 そのポリシーは創業以来受け継がれてきた理念に一致する。試聴を繰り返して音を作りこんでいく過程の中で、どれだけ自分がノレるかを重視しながら、曲全体の調和にも気を配る。長妻さんが続けた。「ひとことで言えば音楽性の豊かさです。『上から下まで伸びがある』というような特性上の優位性も大切ですが、音が織りなす世界により没入できるかを突き詰めていきます」

 目指すのは、色付けのない自然な音だ。「聴いていて楽しくなる、音楽が持っているワクワク感をいかに再現するかが重要です。さまざまな回路や技術は、そのための手段に過ぎません」。小柳さんが真っ直ぐな視線で話す。「ラックスマンの音には肌感があると自負しております。例えば、歌心のある人って、歌唱技術以前に聴く者にグッと迫ってくる力があります。そんな歌心に近いものを弊社のアンプは持ち合わせていると思っています。営業経験が長いということもあると思いますが、私は一聴して『あっ、うちの音だ』ってわかりますよ。『ラックスマン節』といったものが確実に存在しますからね」 

搭載された電源トランス。耐久性や美音の源がここにある

 それを可能にしたのは、社員全員がいわゆる同じ釜の飯を食いながら、音を体で覚えて次の世代に受け継いできたからだ。もうひとつ欠かせないのは、真空管という今となっては「古臭い」デバイスだ。話を聞いた部屋に並ぶ真空管アンプをぐるりと眺めて、長妻さんが解説を加える。「真空管には真空管にしかない独特な音があります。お客様からは真空管の音に対する期待を常に感じてきましたし、多くの要望を考慮しながら、今しかできない真空管の音を求めてきました。最新のソースにも対応できる、真空管を生かしたアンプを作れるかを常に考えてきたつもりです」

MB-300に搭載されたウエスタンエレク
トリック社製の300Bには、名状しがた
い郷愁を覚える球菅愛好家も多いはずだ

 現在ラックスマンでは、フォノイコライザー(レコードプレーヤーとアンプをつなぐ回路)に使われているのも含めて、7機種のアンプに真空管を使う。その理由を長妻さんはこう説明する。「一番は個性的な音です。真空管は、特有の音のひずみを持っていて、人間にとっては『響き』として聞こえるます」。その心地よい揺らぎのある音を創出するためには、真空管は欠かせないデバイスだったし、今でもそれは変わらないのだ。少しいたずらっぽい表情で、小柳さんが敷衍(ふえん)した。「なにより、真空管が刺さっているアンプって格好いいですよね。絵になります。私どもは、そこもすごく重要だと考えています」 

 モノとして愛着を感じなければ、充実したオーディオライフはあり得ないし、長い間使い続けることは不可能だ。その場を占有できるぐらいの、独自の雰囲気。特に真空管を覆うカゴの隙間から見える球管が放つ光は、得も言われぬ空間と時間を創出する。

往年のデザインをモチーフに2017年に改良進化を遂げ
現代も高い人気を誇るコントロールアンプCL-38uC

 ラックスマンが、国内外最古級のオーディオ機器専門メーカーであることは意外と知られていない。ちなみにイギリスのタンノイ社の創業の1年前に誕生している。創業は1925(大正14)年。もともと額縁などの輸入雑貨を商っていたが、同年の日本におけるラジオ放送開始とともにラジオ部を設けて受信機を輸入して店頭に並べた。するとその音の良さに道ゆく人たちが足を止めた。ラックスマンの音質追求の原点だった。

 ただ問題もあった。輸入したはいいが、パーツが壊れる。その都度輸入するのは、いささか厄介だ。ならば自社で作ってしまおうということになった。「最も有名になったのはトランスでした。発売したラックス式トランスが、切れない(壊れない)し音もいいと評判になったんです」

試聴室にセッティングされた最新かつ最上級の機材たち。FOCALのスピーカーとの組み合わせでクラシックを聴けば、まさに天にも昇る気持ち

 社名はラックス株式会社にして、ブランド名はラックスマンになった。なぜ「マン」がついたかは諸説ある。長妻さんが苦笑いを浮かべた。「私が、会長から聞いたのが、ラックスというのは、明かりの単位であるルクスから来ていて、ラテン系の明るい人が社内に多いので、『明るい男たち』という意味で、ラックスマンになったと」。他にもいくつか説があり、どれも定説には至ってないが、長妻さんの説明には説得力がある。

 いずれにしても、ラックスマンが作った最初のアンプは1958年、モノラルのパワーアンプだった。小柳さんが言う。「当時のことは想像でしかありませんが、弊社はパーツを作っていた。ラックス製トランスという信頼性の高い部品も持っていました。このトランスを使用してアンプを作ろうと。まずはパワーアンプから、市場に送り出そうとした、そんな流れだと思います」

 2018年に発売されたプリメインアンプを手に
笑顔の長妻さん。スロバキアのJJ ELECTR
ONIC製出力管EL84を搭載し、真空管アンプ
製造の伝統をも感じさせる現代的な一台だ 

 いまだに、ラックスマンのトランスは評判が高いが、当初より各方面から注目されていたらしい。「阪神甲子園球場のPA(放送設備)を手掛けたり、NHKから一緒にアンプを作ってほしいという話もあったそうです。でも、我々は先代から民生品に対する思いが強く、個人が楽しむ趣味性の高い製品に力を注ぐことが社是として根付いていました」

 そんな中、発売されたのがSQシリーズである。以来、プリメインアンプで真空管を使ったものは型番がSQで始まる。ゴールデンナンバーはSQ38。初代が1963年に、64年にはSQ38Dが発売され、オーディオファイル(マニア)たちの気持ちをガッチリとつかんだ。中でも、エポックメーキングとなった機種が70年に発売されたSQ38FDだった。「名品との評判を得ていたトランスOY-15型を搭載し、我々と共同でNECがチューンアップして作った真空管が使われました。自信を持って世に問うたこの機種の魅力は、現在でもお使いになられている方が多いことからもお分かりいただけるでしょう」

「ヒゲ文字ロゴも、きれいだし格好いいと私は思ってます」と言い切る小柳さんの全ての言葉には、自社ラックスマンへの愛があふれていた

 ラックスマンは真空管を増幅器に使うアンプを終始作り続けている。小柳さんによると、1958年に第1号機を発売して以来、製品のラインアップから、真空管アンプがなくなったことは一度もない。「魅力は、音にもありますが、トランジスタ製品に比べてメンテナンス性の悪さ、平たく言うと手間がかかるところも楽しいんです」

 かつては、メーカー(特にエンジニア)と小売店、そしてユーザーの間には濃密な信頼関係が存在していた。だからメンテナンスや故障が面倒だとしても、それを甘んじて受け入れられたし、むしろそこを楽しむユーザーが少なからず存在したのだ。「そういう付き合いの中で切磋琢磨(せっさたくま)してきたのが、民生品を作る我々メーカーでした。ラックスマンも小売店やお客様の叱咤(しった)激励を受けて性能を上げてきたんです」。私見だと前置きをして、長妻さんが語る。「我々が作っている製品は、効率とか性能だけでは評価できないものです。値段だとかそういうものから逸脱したプロダクト(製品)であるべきだと考えています」。長妻さんは自信に満ちた表情で続ける。「音響機器って、人生を共に歩む相棒みたいなものですよね。強い思い入れがある製品、理屈で割り切れないものですよね」。そんな長妻さんの言葉を受けて小柳さんがさらに思いを語る。「もっと効率よく、お求めやすい価格で作れる会社はあります。でもそれをやったら、ラックスマンである理由がなくなってしまいます」

38シリーズの伝統である「ロ」の字型の木製シャーシで覆われたプリメインアンプが、壁一面に並ぶ。眺めは爽快としか言いようがない

 趣味性の高い世界は、ラックスマンという昔ながらの思想を守り続けているメーカーによって今後も存在しうることだろう。「ミュージシャンが自分の楽曲を録音する前の段階、演奏に至るまでの演奏者の思いまでわかるような音を提供できればと考えています」

 老舗アンプメーカーの音作りには、伝統と技術に裏打ちされた、憎らしいほどのフィロソフィー(哲学)があった。感嘆すべきはその哲学が途切れることなく脈々と受け継がれてきたことだ。だからこそ、多くのオーディオファイルたちは、ラックスマンという名前にひれ伏せざるを得ないのである。

らっくすまんかぶしきがいしゃ
横浜市港北区1-3-1
📞045-470-6980

文・今村博幸 撮影・JUN

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