路地裏を歩く 其の伍

谷根千(東京・荒川区、台東区、文京区)

retroism〜article71〜

下町風情漂う谷根千には着物・浴衣姿がよく似合
    う。近年、こういった着物レンタル店が増殖中だ 

涼しげな風鈴の音色に昭和にタイムスリップしたよ
うな錯覚に陥った。暑さを忘れさせてくれる瞬間だ

猫の街としても知られる谷根千には、あちらこちらで猫のオブジェが飾られている

画像に alt 属性が指定されていません。ファイル名: IMG_1598.jpg観光地化が著しい一帯だが、一歩路地裏
に入ると郷愁を誘う風景が残っている 

惜しまれながらも2012(平成24)年に閉店した「中華料理 春木屋」

看板建築が目を引く千駄木の「尾張屋」。見ているだけでも楽しい

地元のおばちゃん御用達? 昭和の面影が色濃く残る「みね美容室」

地元の人なら知らない人はいないほどの有名店「キッチン マロ」。ノルタルジーを感じる外観がGOOD!

※印が印象的な千駄木の「高橋屋米店」。南魚沼産有機栽培米コシヒカリをはじめ、常に十数種類のお米を取り扱っている

かき氷もおいしい千駄木の「甘味処 百(もも)」

江戸川乱歩の小説「D坂の殺人事件」に登場するD坂は団子坂のこと

招き猫グッズを扱う「開運 谷中堂」。ここにも猫のオブジェが! カフェ・スイーツ店も併設されている

観音寺の築地塀は2000(平成12)年に国指定の有形文化財に登録された

シブさを醸し出している扇風機のオブジェ

思わずまったりしたくなる「散ポタカ
フェ のんびりや」。看板に偽りなしだ

谷中の老舗中華料理店「珎々亭」。看板に
誘われ思わず入店する人も少なくない? 

愛玉子は果実アイギョクシから作られるゼリーの台湾屋台スイーツだ

谷中のランドマーク的存在といえる
「カヤバ珈琲」。タマゴサンドが絶品

猫づくしの古民家カフェ「ねんねこ
家」。脇の社(やしろ)もカワイイ

ねんねこ家近くでリアルキャットと邂逅(かいこう)。人懐っこさが印象的だった

玉林寺脇の小径(こみち)を進むと現
れる「野田家専用井戸」。今も現役だ

あとがき

 路地裏は、大通りとは世界が別だ。角を曲がった瞬間に空気は一変し、垣間見えるのは、そこに住む人たちの暮らしである。路地裏を曲がる手前、大通りの商店街にあるのは、日常を埋めるパーツだ。

 本来あるべきモノが、あるべき姿で、あるべき場所にある。米は米屋で、魚は鮮魚店で、野菜は八百屋で買う。そんな当たり前だったはずの買い物の形は、大型スーパーやコンビニなどの台頭で、すっかり様変わりした。谷根千エリアを歩いてうれしいのは、建物も含めてかつての商店が姿を変えずに残っているところだ。戦争で焼けなかったのも幸いした。夕焼けだんだんから、よみせ通りにかけて並ぶ「古き店」が、この地域の主役だ。

 谷根千は、猫の町でもある。そもそも路地には猫が多いと思われているし実際にその通りだ。そんな俗説を差し引いても、谷根千の路地裏こそが猫の住処(すみか)、と言っても過言ではない。それを決定付けたのは、かの夏目漱石である。イギリスから日本に戻った漱石は、本郷区駒込千駄木町57番地に住んだ。この古い家が「猫の家」と呼ばれるようになったのは、処女作「吾輩は猫である」がここで生まれたからに他ならない。

 商店街や街中を歩いて目に飛び込んでくる景色は、小売店に加え、お地蔵さんや小さな祠(ほこら)。さらに小憎らしいのは、ところどころにさりげなく置かれた木製の縁台だ。これからの季節、風流をさりげなく演出することになる。買い物の途中なのか、仲の良さそうな老夫婦が座り、ペットボトルのお茶を飲んでいた。ぴったりとくっついていたが、言葉は交さない。夕食の買い物に二人で出かけた帰り道、ひと休みしているらしく、これから家へ戻るといったところか。部屋に着いたら、おじいさんは妻の作る料理の音や匂いを感じながら、テレビでも見ながら夕食を待つ姿が想像できる。谷根千では、人として最も基本的で温かで大切な、かつ素朴な事柄がとても似合うのだ。

 帰り際、一つの路地へと入ってみる。三輪車と補助付き自転車で子供が遊び、おばあちゃんが優しいまなざしで孫たちを見守っていた。見上げると、民家のベランダに干してある洗濯物が7月の湿った風にはためき、気持ちよさそうに揺れていた。

文・今村博幸 撮影・SHIN

※新型コロナウイルス感染拡大で、現在取材を自粛しております。当面、特別編や路地裏を歩くを配信する予定です。ご了承ください。

 

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