古今東西老若男女に愛される洋食屋は永久に不滅

   次に来るのは、オムライス。これは洋食屋でしか食べられない一品だ。当然のことながら、フワフワトロトロの半熟卵はかかっていない。きっちりと焼いた薄焼き卵でケチャップ味のチキンライスが巻いてあるものが正しい。現在では、ホワイトソースやデミグラスソースなどをかける店も少なくないが、やはりケチャップライスに薄焼き卵、その上にさらにまたケチャップが王道だ。

 もう一つ、絶対に外せないのがハンバーグである。横浜に24時間営業(現在は午前9時半〜午前0時)の洋食屋「コトブキ」があり、夜中にはさまざまな人間模様が繰り広げられていた。椅子は合成皮革の座面のところどころでスプリングが壊れていて座りづらかった。テーブルは木製で重厚、まさに「THE洋食屋」といった様相を呈していた。筆者はそこで、よくハンバーグを頼んだが、肉はカチカチ、デミグラスというよりグレービーといったほうがいいソースなど、何もかもが真の洋食屋だった。余談だが、筆者の知り合いは、この店で深夜、レバカツをつまみながらビールを飲んで女を口説くのが常だった。

 話が横にそれたが、ハンバーグの最重要ポイントは、店が精魂を込めるデミグラスソースだ。店の個性であり命である。特徴的なのは、苦みのあるタイプ。ありふれた言葉で言えば、大人の味とでも言おうか。肉汁の味を前面に出したグレービーなタイプもあれば、甘さを強調したものまでさまざまだ。それぞれ、店主の味に対する考え方で変わる。この「店主の味に対する考え方で変わる」ところがその店の価値であり、料理を味わう楽しさでもある。横浜の丘の上にある老舗の洋食屋「山手ROCHE」は、どちらかというと甘めだ。料理長の説明には説得力があった。「牛肉には甘めのソースの方が合うと僕は考えています。焼肉にしても、日本料理のすき焼きにしても、甘いタレで食べるでしょう? あれにはやはり意味があるんですよ」

 さらに、老舗洋食店には、絶対的共通点がある。野菜の皮むきから肉の処理、ソース、サラダのドレッシング一つを取っても、絶対に手を抜かず、自らの手から生み出すことだ。間違っても、既製品は使わない。理由は明快で、彼らが表現者でありアーティストだからだ。自分の信じる「味」を客に提供し喜んでもらいたい、感動を与えたいという強い思いがあるからだ。

 その「気概」がある限り、洋食屋はこれからも生き続け、子供だけでなく、大人の心を踊らせる。血の通った料理は誰がなんと言おうとうまいのだ。

  文・今村博幸 撮影・伊藤千晴、柳田隆司、岡本央

※新型コロナウイルス感染拡大で、現在取材を自粛しております。当面、特別編を配信する予定です。ご了承ください。

 
スポンサーリンク

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする