令和に訪れたい昭和の文化漂う胸キュン喫茶店

コラム其ノ弍(特別編)

retroism〜article62〜

 入り口の扉を開けて一歩店内に足を踏み入れた途端、空気が一変する。喫茶店は本来そういう場所だった。外の世界とは全く違う時間が流れていることを実感させてくれるのは、まずコーヒーの香りだ。同時に存在していたのが独自の文化であり、喫茶店はその発信基地でもあった。コーヒーの香りで満たされた空間から文化が生まれ、大衆へと広まっていった。

手動の蓄音機が現役の「民芸茶房 木亭」で、母が淹(い)れるコーヒーと娘が作るプリン

 30年ほど前だが、作家のねじめ正一さんにインタビューしたことがある。喫茶店特集のコラムだったと記憶している。彼は言った。「僕は喫茶店で原稿を書くことがよくあります。執筆に行き詰まると、店を出て他の喫茶店まで歩く。歩いている間にアイデアが浮かんで喫茶店に駆け込んでコーヒーを注文し、また原稿を書きます」。特に詩はこの方法が有効だったらしい。「歩いている間に言葉が頭の中で湧き上がってくる。それがあふれそうになると喫茶店に飛びこんで勢いで書く。詩が一本出来上がることも多いんです」。ねじめさんに紹介してもらった行きつけの喫茶店には、東郷青児の大きな絵がかけられていた。もちろん本物だ。当時はいわゆる名画が飾られた(ほとんどは複製だと思うが)、美術館のような店も少なからずあった。

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