ココロ躍る憧れの昭和を体感できる喫茶店

喫茶セピア(東京・柴又)

retroism〜article48〜

「レトロは楽しいですよ。懐かしさに胸がキュンっとなります。子供の頃の思い出と一緒にあるからですかね」。東京・柴又の最もにぎやかな場所から、ほんの少しだけそれた場所にある「喫茶セピア」。入り口に立つと、かつての少女マンガに出てきそうな店内にココロが踊る。店を営むのは長谷沢貴世子さんである。
懐かしいモノでいっぱいの2階。奥の部屋には、家電や炊飯器、洗濯機なども飾られている

「あの頃のことを思うと、また頑張ろうって思えるんですよね。なぜなんですかねえ」。昭和30〜40年代は、あらゆるモノや事柄に、パワーあふれる時代だった。ファッションにしても、音楽にしても、また漫画などのサブカルチャーや風俗の中にも、勢いがあった。長谷沢さんの言葉は、その頃の状況を端的に言い表していた。「5歳ぐらい若返るってお客さんに言っていただきますね」

マネキンが首から下げていたのは客が置いていったオリンパスOM-2。店内に飾rれれている懐かしいモノは客から提供されるものも少なくない

 喫茶店を開きたいという思いは、随分前から温めていた夢だった、と長谷沢さんは目を輝かせる。「女の子の間では『りぼん』と『なかよし』が人気ありました。物語の中に登場する、洋服を含めたライフスタイルまで、乙女チックな可愛いものが登場するのも楽しかったのですが、必ず喫茶店が描かれていたんです。そんな喫茶店をやってみたいというのが夢でした」

チャンネルを回すタイプではなくなった頃のテレビ。
テレビの下には、一時期はやったミニボトルが並ぶ。
回転式チャンネルのテレビも別の部屋にある    

 その計画が具体的になったのは、8年ほど前。ただの喫茶店では面白くないと考えた長谷沢さんは、自分の「好きなモノ」と店を結びつけることを考えた。「なんとなく、可愛い喫茶店が心の中にありました。パーラーのようなね。そして、自分の好きなモノを店内に飾ったら、楽しいんじゃないかって思いました」。長谷沢さんの好きなもの。つまり、懐かしい古いものだった。

ポップな1階には懐かしいポスターも。クリームソーダを飲んでいた20代のカップルに店の感想を聞くと「新しい」と答えてくれた

 もう一つ好きなモノがあった。「昭和のハワイです。1960年代のエルビス・プレスリーがリリースしたブルー・ハワイとか。ハワイのお土産なんかも集めていましたが、日系人の暮らしが垣間見えて、昭和のいい感じが残っているんですよね」

兄の部屋には、家族の誰もが見てはいけないものがあった

 さらに、日本の古いものも集め出し、結果、それらを自分の店に飾ることになる。「喫茶店を始めると決めた時、自分の持っているものを置いちゃおうと思いました」。当時のどんな家庭の中にもあった道具や小物、インテリアなどなど、さまざまなものが長谷沢さんの手元に集まっていた。「旅行も熱海などレトロを感じられる場所に行くことが多くて、現地では、土産屋と金物屋、リサイクルショップは必ず寄りますよ」

昔ながらのクリームソーダ(メロン味)。グラスは
昭和時代
のデッドストックだ。他にタコウインナー
    が乗るスパゲティ・ナポリタンやオムライスもある 

 店主の叔母さんの存在も大きかった。「私が買ったものもありますが、物持ちの良い叔母がいて、彼女からもらったものも結構あるんです。女性自身やアンアン、ノンノなども彼女が残していて、店でも読めるようにしました。物持ちがいい人が多かったのも昭和の特徴ですかね」と笑う長谷沢さんのコレクションの凄さは、大きなものから細部にわたっていることだ。数え上げるときりがない。大物では、冷蔵庫や洗濯機は件(くだん)の叔母さんの家にあったもの。ソファや食器棚なども昭和の香りがする。感心させられるのが小物だ。例えば、居間の隅に置いてあったカラフルなマガジンラック、回転式チャンネルのブラウン管テレビ、食器棚の下の棚には麹町の老舗「泉屋」のティン缶製の箱にがさりげなく置いてある。母親が領収書などを入れていた記憶がある方もおいでだろう。

店主の長谷沢貴世子さん。少女漫画に出てきたような喫茶店が開きたいと言う夢をかなえた

 それらが見られるのは、狭くて急な木造の階段を上がった2階だ。40代や50代なら、「これ家にあった! あった!」と叫びたくなる品々のオンパレードだ。「子供の頃って、憧れがいっぱいあったと思うんですよ。私の場合には、明治チェリーチョコレート。奥村チヨさんのCMとか見たら、欲しくなったけど買ってもらえませんでした。子供にとっては禁断のお菓子。のぞいてみたい大人の世界でした」

年配の人向けの洋服などを売る店の後を借りた。木造トタン張りの昭和の住宅がそのまま使われている

 昔を思い出すように、視線を上に向けた長谷沢さんは最後に、説得力のあるせりふを、こともなげに口にした。「大人になった今が昭和だったら、楽しいだろうなって思うことがありますね」

 長谷沢さんの話とセピアの店内は、昭和が「輝いていた時代であった」ことを再発見させてくれる空間だ。

きっさせぴあ
東京都葛飾区柴又7-4-11
📞03-6657-8620
営業時間:午前11時〜午後5時半
定休日:火曜、水曜
文・今村博幸 撮影・岡本央

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