素朴で懐かしい60年代のケーキが自慢の老舗

浜志“まん(横浜・伊勢佐木町)

retroism〜article45〜

 「浜志“まん」の素朴な洋菓子は、1957(昭和32)年に始まり、その味は今も変わってない。つまり、60年代のケーキを作り続けていることになる。だからといって、古さは全く感じない。舌と心に訴えかけてくるのは、素朴な懐かしさである。

ショーケースに並ぶのは、定番のケーキがほとんど。多くの客がそれを喜んでいる

 もともと「浜志“まん」は、和菓子店として13(大正2)年に創業し、「浜志”まん最中」などのヒット商品を生み出す。その後、関東大震災、第二次世界大戦といった、天災と人災が続いた「時代」に、店は翻弄(ほんろう)された。しかし戦争が終わると、いい風が吹き始める。「その頃の横浜には外国のものがあふれていました。同時に、渡航手段が船から飛行機へと変わっていきます。すると、船で働いていた人たちが陸に揚がってきて仕事を始めるようになったんです」。当時、日本郵船の船に乗っていたシェフやパティシエたちの腕は抜群だった。横浜−ロンドンの40日間という航海の厳しい条件下、一日たりとも同じメニューを出さなかったその力量は推して知るべしである。そんなパティシエに注目したのが、浜志“まんの2代目だった。 

ケーキの箱を包むリボンも、アナログな感じのホルダーに 

 創業当時から、同店のチーフパティシエを務める工藤英治さんは、日本郵船のパティシエから洋菓子作りの手ほどきを受ける。彼は今でも店の裏の厨房(ちゅうぼう)で腕をふるうが、浜志“まんの味が変わらない理由もそこにある。「基本、うちが洋菓子を始めた頃の、日本郵船の人から教えていただいた技術が、そのまま受け継がれています」。だから、ほっとする味に懐かしさを感じるし、少し間をおくと食べたくなる。食べる方にとっても、「基本はこれ」という味を提供し続けているのだ。

清潔感漂う店内。ショーケースの反対側には、コーヒーを飲めるスペース。素朴なスペースだ 

 例えば、生クリーム。凝った感じはしないが、すんなりと食べられるのは、かつてどこかで食べた懐かしい味だからだ。「材料を仕入れるのは、戦前戦後から付き合っている業者さんばかりです。業者さんを大事にする重要性は、父に教わったことです」

市村さんの兄、裕史(やすし)さんも、腕のいいパティシエ。その丁寧な仕事ぶりは、ここのケーキはを食べれば誰もが納得だ

 ショーケースに並ぶのは、ほとんどがオーソドックスでクラシックなケーキだ。「ちょっと挑戦した時期もあったんですけど……」と市村さんがはにかむように笑う。「当店のお客様は、昔ながらのものを求めていらっしゃる方が多いと思います。最新のものはデパートで買います。そこは上手に使い分けくださってると思います」

右がボストン。上に描かれた模様がトレードマーク。奥が、見かけが個性的なモンブランは、クリの風味がたっぷりだ

 浜志“まんの美味しさは、スポンジと生クリームにある。特に、生クリームに関しては、上質な素材へのこだわりが強い。生クリームを作る際、プロは少量の酒を加える。甘さにキレを与え、卵やバターなどの乳味をマスキングし、粉っぽさを軽減して口当たりを滑らかにするだめだ。一般的には、製菓用のリキュールなどを使うところが多いという。しかし浜志“まんは違う。「コニャックを使います。ブランドはヘネシーです。少量ですが、食べた時に大きな差が出ます」

代表取締役の市村聡史さん。和菓子屋だった当時の法被を来てくれた

 看板商品は、「ボストンクリームパイ」だ。「もともと、ボストンオムニパーカーハウスホテルで作られた、アメリカ人なら誰もが懐かしさを感じる伝統のケーキです。当店のものは、日本郵船のパティシエから、うちの工藤が教わったものです。私どもの原点的かつ象徴的なケーキと言ってもいいでしょう」。2枚のスポンジの上に、カスタードクリーム、その上に生クリームを絞ってふたをする。極めてシンプルだが、うまいことに変わりはない。生クリームとカスタードクリーム、スポンジが得も言われぬハーモニーを奏でるのだ。

 一方、モンブランもケーキの定番だが、ここのは、工藤さんの技が詰まった一品。クリのクリームと生クリーム、カスタードクリームと刻んだクリが入っている。これもシンプルだが、根強いファンは多い。「板状にしたクリのクリームが上に乗りますが、そこが工藤のこだわりで、口に入れた時の感じがまるで違いますよ」

伊勢佐木町商店街の奥深くに店はある。「ザキ」の雰囲気をまだ少し残している地域だ

 浜志まんは、和菓子屋として創業してから、100年を超えた。今でもそしてこれからも、素朴で昔ながらのケーキを作り続ける。

はまじまん
横浜市中区伊勢佐木町5-129
📞045-252-4001
営業時間:午前10時~午後6時30分
(ティールームは〜午後5時)
定休日:月曜
文・今村博幸 撮影・柳田隆司

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