レトロ散歩 其ノ壱

あとがき

 都営荒川線(通称東京さくらトラム)はのんびり走る。全然急がない。まるで、スピードを競う今の時代にあらがうかのようだ。終点の三ノ輪橋停留場に入る直前には、さらにゆっくりになる。線路のつなぎ目を車両が通過する音は、電車とは思えないほど。一つ前の「ガタン」から次の「ゴトン」までがとても長いのだ。

 三ノ輪橋停留場を出ると、見えてくるのが「ジョイフル三ノ輪」という名前のアーケード商店街である。静かな商店街には、一通りの店が並ぶ。つい目がいってしまう総菜屋には、うまそうな揚げ物や煮物、おにぎりなどが視覚だけで食欲をそそる。多種多様な店が仲よさそうに隣り合ってるのを見ながら思うのは、昭和の商店街って、こんな感じだったということ。大半の店は、メンテナンスはしてるはずだが、懐かしい匂いをガッツリ残している。変わる必要もなければ、変わりたくもないのだろう。

 ところどころに現れる細い路地が、商店街に華を添える。明と暗で言えば、少し「暗」かもしれないが、路地は間違いなく華だ。商店街にアクセントや変化を与え、実際にその先は明るい。もし路地がなければ、商店街はノッペラとした感じになると思う。

 ジョイフル三ノ輪を歩きながら時々聞こえてくるのは、のんびりと荒川線が走る音である。懐かしくて心地よい響きだ。

文・今村博幸 撮影・松本徹

スポンサーリンク

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする