レコードがもっと好きになる アナログ文化発信地

HMV record shop 渋谷(東京・渋谷)

retroism〜article30〜

 レコードは、ただ単に音楽を聴くための記録媒体ではない。日常を豊かなものにしていく一服の清涼剤でもある。「HMV record shop渋谷」のエリアマネジャー竹野智博さんが、レコードの魅力を語る。

2階にあるソウルやR &Bのコーナー。ソウル好きならたまらないお宝もザクザク

「レコードを聴くには、時間的余裕が必要です。コーヒーやビールなどを飲みながら、まったりとして聴いていると、本当にいい時間だと思えます。音楽が心に響いてくる、本当の意味での音楽鑑賞といえるでしょう。ミュージシャンや音楽に対して、愛情すら湧いてくるんです」。その時間を回想するように、竹野さんはうっとりとした表情を見せた。

ビートルズ2作目アルバム「with the beatles」のオーストラリア版と、マスターテープに近く最も音が良いとされるオープンリール用のテープ

 そんなレコードを取り巻く状況は、今変わりつつある。レコードそのものに価値を見いだしている人も増えていると、竹野さんは分析する。「レコードは、モノとしてもすばらしい、愛すべきアイテムだと思います。例えば、ジャケットのせいだと思いますが、レコードにも匂いがあります。日本版は匂いがしませんが、UK版とアメリカ版では違う匂いがするんです」。頑張って買ったレコードを眺めた時に、モノのとして「持ってるぞ」、という実感を感じることもあると竹野さんはうなづく。

ゆずのサンプルレコードを手に説明する竹野さん。宣伝用に作り、抽選で当たった人だけが持っているという貴重な代物だ 

 音に関しても、見直されていると、竹野さんは力を込める。「本来人間が聞こえない音が出ていて、そこがうまみ成分だと言われています。私個人的にも、ちょっとしたチリノイズはないと寂しい。むしろ好きです」

 CDショップの雄である、HMVがレコードに特化した店舗を渋谷にオープンさせたのは、2014年の8月だった。今は加えて新宿、吉祥寺にもあるが、どれも竹野さんが実際にオープンさせた店である。「14年の頭ぐらいから、HMVとして中古専門店を出そうと考えていました。その段階で、レコードも売りたいという考えも出てきました」。最初、新店舗は中古CDを売ればいいんじゃないかという話もあった。「しかし、CDの新譜が売れなくなっていく中で、中古を売るならば、やはりレコードが面白いという結論に達したのです」

ビル自体が元銀行で、ここは金庫だった場所。ずらりと並ぶのは、最も力を入れているジャンルの一つであるソウルやジャズのシングル盤だ

 14年ごろのレコード市場は、その良さが見直され、盛り上がる寸前だった。背景には、CDを買わない客が増えたことがあるが、ちょうどPCやネットで音楽を聴く人が増えてきた時期とも重なる。一方で、海外では、レコードショップに人が並ぶという現象も起きていた。「日本でも同じ流れがくるのではないかと私たちは考え、レコードを扱うことに踏み切ったのです。まずは渋谷で2年間土台を作り、2年後に新宿、その半年後に吉祥寺でレコードショップをオープンさせました」

紙製またはビニール製のスリーブ(内袋)がまとめて売られている。「どこで売っているのかわからない、というお客様もいて、重宝がられてます」 

 竹野さんの表情は、自信に満ちていた。立て続けにレコードショップを展開したのは、その盛り上がりを肌で感じていたからである。「リスナーから、レコードが受け入れられている手応えは十分にありましたね」

 棚に並ぶレコードは、多くが海外で買い付けたもの。現地の状況も見ながら、中古レコードを吟味して仕入れる。売り場は1階と2階に分かれていて、そろえるのはオールジャンルだ。1階が1960年代から最近のロックと日本のアーティスト、2階がソウル、ジャズを中心にそれ以外のジャンルも網羅する。EP版が充実しているのも頼もしい。さらに、日本人アーティストに関しては、90年代にリリースされた珍品もちらほら。ゆずのレコードサンプルまでもある。「これは珍品です。存在すら知らない人も多いはずですよ」。竹野さんはニヤリと笑った。

レコードに関するあらゆる書籍も充実。これからターンテーブルを買おうという人にとっても参考になる

  アイテムが豊富なのはさすがだが、HMV record shopの最大の売りは人、つまりスタッフである。「レコードの難しいところは、商品の把握にあります。レコードの歴史も含めた知識がないと勤まりません。同じアーティストでも最近出たものから50年前に出たものまであるなど、知らないと恥をかいてしまう。レコードが好きなお客様は、詳しい人が多いですからね。だから一番難しいのは、スタッフを育てることです」

 難しいと竹野さんは言いながら、それが一向に苦にならない、むしろ楽しんでいるようにも見える。「好きだけではダメなんです。自分でレコードを買う経験が必要です。ちょっと今風ではないですが、ガッツだとか気合が大切。経験や勘も必要です。そして最も必要なのは、古いものが好きだとか、骨董(こっとう)品に対する愛がないとできない仕事です」

 レコードもアナログだが、スタッフもアナログ的な思考、前時代的な考え方をしないと務まらないのだ。「スタッフにオススメを聞いてもらいたいですね。当然、主観は入りますけどね」。主観でモノを売るのは、たとえ時代がかっていると言われようが、モノを売る本来の姿であることには違いはない。

竹野さんのゆるキャラ? 話を聞いたバックヤードには、預かったレコードが山積みになっていた。
一枚ずつ選別し値段をつける作業が待っている   

 中古レコードの捉えられ方も、最近は変わってきていると、竹野さんは言う。 「今、80年代、90年代のレコードが骨董品として価値が出始めています。というのは、88年を境に、レコードの量が激減しました。それは88年から90年代にリリースされたレコードの数が少ないことを意味します。例えば、当時のUKロックの代表格と言っていいオアシスのCDは爆発的にヒットしたのに、レコードは1万枚も流通していない。ファンとしたら、レコード盤があるならぜひ聴いてみたいと思うのは当然でしょう」

 音楽を聴くメディアの原点はレコードにある。いい音で聴きたいとの思いがあれば、レコードに行き着かざるを得ないのだ。「仕事中とか通勤途中にスマホやPCで音楽を聴くのを全く否定しません。むしろ聴いてほしい。ただ、行き着くところとしてレコードがあるとすれば、まずは触れて、一枚でもいいから買うところから始めてほしいというのが、私たちの願いです」

クラブミュージックで有名だったレコード店「DMR」が入っていた場所に店舗を借りた。「この場所店を開くのはストーリーとしてもいいと思った」と竹野さん=ローソンエンタテインメント提供   

 確かに今、レコードがブームと言われている。しかし、急激にレコードブームが来る必要はない。緩やかにそこに近づいていけばいいと竹野さんは言う。最終的には、選択肢の一つとなって、デジタルとアナログが共存できるのが理想だ。かつてレコードしかない時代に音楽を聴いていたおじさんやおばさんたちはもちろん、アナログ盤を知らない若者たちも、レコードを手に取ってみてほしい。

 CDやPCなどのデジタル音源では味わえない温かみと奥行きのある音に、魂まで揺さぶられること必至だ。

えいち・えむ・ゔぃ れこーどしょっぷ しぶや
東京都渋谷区宇田川町36-2 ノア渋谷 1F 2F
📞03・5784・1390
営業時間:午前11時〜午後10時
定休日:無休

文・今村博幸 撮影・柳田隆司

スポンサーリンク

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする