古本が取り持つ素敵なえにし

古書 サンカクヤマ(東京・高円寺)

retroism〜article29〜

  人と人は言うに及ばず、人とモノもどこかで必ず繋がっている。めぐり巡っていると言ってもいいだろう。何気ない暮らしの中で、その不思議に、驚かされることもしばしばだ。

こぢんまりした店内に、コミックは3棚を占めている。他のジャンルは美術、専門書、映画、サブカルチャー、音楽、実用書、絵本、文学、雑誌など  

「古書 サンカクヤマ」の店主、粟生田(あわうだ)由布子さんは、古書の魅力を静かに語る。「古本は、最低1回は、誰かに読まれて心のフィルターを通った後、古本屋に流れてきて、また次のユーザー(読者)に届くんです」

 そう考えると、本はまるで、大海原に漂う小さな船のようにも思える。偶然とか必然とか人は言うが、結局、ある人の手からある人の手に渡ったのは、必然と考えるしか説明はつかない。全国にごまんとある古書店の中の一軒を訪れた客が、たった一冊の本を見つける確率は、とても低いと思うからだ。

のらくろは、出版された15巻うちの3冊。ブル聯隊長(れんたいちょう)との掛け合いは楽しく、のらくろのドジさ加減に、親近感を覚えた読者も多い 

 さらに、粟生田さんは言う。「誰かがいいと思った本を、別の人が古本屋で買うのは、前に読んだ人に共感してることになると思うんです。つまり、『共感』で人と人が繋がっているんですよね。素敵(すてき)なことです」

 そんな粟生田さんの本との関わりは、図書館から始まった。「近くに図書館があったんです。だから本を読むのが当たり前という感じはありました」。膨大な本が集められた書庫が、家のすぐそばにあるなど、本好きなら誰もがうらやむ環境だ。

美術系の書籍をきれいに飾りたい粟生田さんと、優れた審美眼をもつ白洲正子の展覧会のポスターは全く矛盾しない  

「字が読めるようになる小学生ぐらいから、本にはなじんでました。小学生でしたから、よく読んでいたのは、コボちゃんとかサザエさんとか、占いの本だったと思います。なんとか字が読めるぐらいの年齢ですから、難しい小説というよりは、児童書のコーナーで、読める本を読んでいたと記憶しています。中学生ぐらいからは、教科書に載っていた小説を、単行本や文庫本で読んでましたね。教科書には、導入部分とか山場だけしか載ってないので」

「この店らしい一冊を」の問いに栗生田さんは「きみも悪魔博士になれる 悪魔全書(佐藤有文著)」を選んだ。「お気に入りの一冊です」

 その後、粟生田さんの興味は、音楽へと傾いていく。「『ROCKING’ON JAPAN(ロッキング・オン・ジャパン)』が取り上げていた、スーパーカーとかナンバーガールなんかのCDはよく聞いてました。そのあとは、エレクトロニカとか、ロックやフォークも好きになりました」

 この時代の音楽を、比較的満遍なく好きだったこともあり、CDショップで働き始める。「当時は、本よりも音楽の方が好きだったかもしれません。でも、仕事にしてしまうと、逆にストレスに感じてしまい、そこから離れるために、また本を読み始めたという感じです」

「ドラえもんやゲームキャラクター、ウルトラマンなどのフィギュアは、日本人よりも海外の方に受けます」と粟生田さん 

 そんな粟生田さんが、古書店を開こうと思ったのは、いくつかの仕事を経験する間に、「勤め人には向いてない」ことがわかったからだ。「だったら自分でやるしかないと思ったときに、身近に感じたのが本でした」。縁は異なものである。自宅近くの図書館で、コミックや小説を読んでいた少女が、大人になって、また本に戻ってきたことになる。

 アダルト以外は、ほぼ全ジャンルを置く。コミックが多めなのは、図書館に行き始めた頃、漫画を読んでいたことと関係していると言えば強引だろうか? 全てはどこかで繋がっていると考えれば、それもまんざら的外れではないだろう。当の粟生田さんは、その理由に地域性を挙げた。「この地域自体に、コミックの需要があるのだろうって思っています。店を始めた当初から、売りに来る人も、買いに来る人もコミックが多い気がします」

「チキチキマシン猛レース」の登場人物ブラック魔王
の飼い犬ケンケン。魔王をバカにしていた。独特な
笑い方は、今も多くの人の記憶に刻まれている  

 サンカクヤマのもう一つのウリは、本以外のおもちゃや小物が相当数置いてあるところだ。「店を始めたときに、結構棚が空いていて、そこを埋めるために、私物の雑貨やおもちゃを並べたんです。すると、お客さんもおもちゃを売りに来るようになっちゃったんです」

 特に年代を限っているわけではないが、懐かしいおもちゃが多い。古書店にフラッと入る我々の意識は、宝探しに例えられることがよくある。その意味では、何か面白い書物を求めてさまよいながら、結果、古いおもちゃに出合えたというのも、それはそれで楽しいことに変わりはない。

レトロイズムのトップページにあるイメージの招き猫を見つけ、思わず写真を撮ってもらった

 店内の棚は、ジャンルごとにきちんと整理され、美しく並べられている。面出しが多いのも特徴である。「汚れが目立つものは、店に出さないように、なるべくきれいなものを並べるようにしています」

外観はいたって普通の古書店に見えるが、中に入ると様子は一変。フィギュアや紙芝居などのおもちゃが所狭しと並んでいる 

 女性ならではの、きめ細やかさな心遣いがあふれる店内は、古本とおもちゃが紡ぐ人と人、人とモノ、モノとモノの縁(えにし)を確かに感じさせてくれるのだ。

こしょ さんかくやま
東京都杉並区高円寺北3-44-24
📞03・5364・9892
営業時間:正午〜午後9時
定休日:水

文・今村博幸 撮影・岡本央

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