古着が最先端に 類まれなるトンデモ空間

はやとちり(東京・高円寺)

retroism〜article26〜

 店の前で思わず立ちすくんだ。

  朽ち果てて今にも崩落しそうな建物、「キタコレビル」。横に回り込むと見えてくる入り口から中に足を踏み入れると、何十年前に作られたのかかわからない錆(さ)びた階段や、改修されぬまま時の流れに委ねた空間が広がっている。


キタコレビルの外観。表には洋服と着物の古着が並ぶ

   そんなキタコレビル の一角に、店主の後藤慶光さんの感性と感情が優先される「はやとちり」がある。心の赴くままに古着をリメークして、誰も見たことのない一着を作り上げるその創造力には誰もが舌を巻く。店内の色彩は、まばゆいばかりに豊かだ。

店の横壁には落書きとともに、さまざまなシールが。さながら印象派の抽象画のよう

  古着が好きだと後藤さんは言う。「ブランド物よりは安いし、個人経営の店は、それぞれに個性があって巡る楽しみがありますからね。洋服好き(=古着好き)なので。学生の頃は、わりとよく古着屋巡りもしてました。特に一昔前の古着は、個性的なのが多い。面白いデザインの古着が好きなんです」。同時に後藤さんは、自分で洋服のリメークもちょこちょこやっていた。

NBA選手が着るサイズの大きなスタジャンと、鋲ジャンの融合

 後藤さんが自分の店を開いた理由はシンプルだ。「リメークした服の卸しもしていたんです。でも、その店に合わないと置いてもらえません。自分の店なら、自分の好きなものが並べられますからね」

 もともと今の店がある裏にあった古着屋で働いていたが、北口には服屋がほとんどなかった。わざわざ1店舗だけのために客は来ないと考え、出店を考えていた知人を誘って、今の場所で店を始める。5件ほど店が集まった時に、場所の名前をつけたほうがいいと考え、「キタコレビル 」と命名した。「北口とコレクションを合わせて縮めました」。店名は、オープン当初一緒にやっていたパートナーと考えたものである。「英語じゃない方がいいと思っていました。人が覚えやすい言葉は5文字程度、ってどこかに書いてあったのを思い出し、ひらがな5文字の候補を2人で出し合いました。最後に残ったのが、「はやとちり」と「ひとみしり」の二つ。相方が、『俺は人見知りじゃないから、こっちばボツ』となって、今の店名に決まりました」

店主の後藤慶光さん。左にちらっっと見えているのはミシン。大きな作業は家だが、ここでも服のリメークを行う

 その店名の意味づけが、とても真面目なところも興味深い。「元々の意味は『先取りして失敗する』みたいな意味です。でも、ファッションでとらえると、先取りするのはいいことですよね。最先端ってことで」

 店のコンセプトを尋ねると、特にないと後藤さんは言った。「コンセプトを決めると、好みが変わってきたときにシフトチェンジできません。だからコンセプトはないですね。その時その時に気に入った服、ピンと来たモノを店に並べます。気分なんで。最初に見て格好良くないと思っても、年数後に見たら格好良かったりもします。要はタイミングですね」

店内はとにかく色であふれている。これも後藤さんの感性と感情が優先された結果だ

 店に並ぶ商品は、個性あふれる商品ばかりだ。革製品のブランド、ジェフハミルトンが作ったNBAのスタジアムジャンパーと、ハードコアの人が好んでつける銀の鋲(びょう=スタッズ)をつけた、いわゆる鋲ジャンをミックスさせたキラキラの一品。プラモデルチックな感じが好きで、服のリメークに使いたかった。しかし、洋服につけると洗えないので、頻繁に洗濯しない帽子なら、「ギリ、プラスチックのパーツつけられる」と作った帽子もある。アシンメトリー(左右非対称)な形のジャケットは、肩の部分が家になっている。見たことないし、これからも見ることもないだろう、と後藤さんは笑った。「よそに置いてあるような品物は、なるだけ置かないようにしています」。後藤さんは言うが、逆に、この店に置いてあるような服が他にあるとは思えない。

ゼンマイを巻くとウサギがドラムをたたく。昭和と日本を代表するおもちゃと言っていいだろう

 それらの服の隙間には、時代を経た雑貨やぬいぐるみなども並ぶ。「昔は趣味でぬいぐるみを集めていました。特に古いやつ。目のパーツのクオリティが低いのがいいんですよ。目が『バグってる』ような古い時代のぬいぐるみが可愛げがあって、集めてました。結構売れちゃったんですけど、少しは残ってます。レトロな感覚の雑貨は好きですね。愛着もわきますしね」。 「ドラムを叩くうさぎ」も置かれていた。古いおもちゃの鉄板商品である。

止めてあるデコチャリは、後藤さんが買って近所の自転車屋に改造してもらったもの。店の横に止めても違和感がない

 後藤さんの手にかかった古着が、見たこともないような先端を行くファッションに変わっていく様はまさに、「温故知新」の精神とピタリと合致する。

はやとちり
東京都杉並区高円寺北3-4-11
📞03・5327・5330
営業時間:午後3時~同9時 (土、日、祝午後1時~同9時)
定休日:なし
http://hayatochiri-koenji-kitakore.com
文・今村博幸 撮影・柳田隆司

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