珠玉のヴィンテージカーに出会える専門店

Vintage Car Yoshino(横浜・片倉町)

retroism〜article25〜

「三度の飯より車が好きだし、それは今でも変わらないねぇ」。 悠々と椅子に腰掛けた「Vintage Car Yoshino」の代表取締役・芳野正明さんは、そう言った。「排ガスすらもいい匂いだって思ってたほどですよ」。好きを仕事にするために、トヨタの営業マンになった。その後独立して、ヴィンテージカーのショップをオープンした。活動の場に選んだのは横浜だった。

トヨタ・2000GTの後ろ姿には、得も言われぬ色っぽさと、力強さがある

「横浜で店を始めたいと思ったのは、ベースキャンプがあったからなんですよ。珍しい車、乗用車がどんどん入ってきていたからね。横浜に住まないとそういう車は見られないと思いました」。当時を懐かしむように芳野さんが少しだけ上を向いた。食べ物も芳野さんにとってショッキングだった。

ヴィンテージカーに乗るなら、細部にもこだわりたい。ステアリング・ホイールあたりに注目するのも通の証しだ

「彼らが通っているレストランに入ったら、初めて見る料理は珍しく、食べれば、それまで口にしたことのない味がいっぱいあるんだから。これは横浜に住まなきゃって確信しました」。芳野さんが20歳ぐらいの頃、50年ほど前の話である。「本牧のジャズバーで、ショットでバーボンを飲んでる外国人の後ろ姿は、惚れ惚れするほど格好良かった。(老舗バー)スターダストも好きでよく通ったものです」

2000GTの純正マグネシウムホイール。貴重な部品やパーツをそろえているのも、Vintage Car Yoshinoの強みだ

 そんな横浜で会社を設立して店を出したのは、芳野さんが33歳の時だった。扱うのは主に、1960年代以前に生産された国内外のヴィンテージカーである。「1960年代以前」というのには、大きな意味がある。芳野さんがたばこを片手に説明を始めた。「今のインジェクションとは違って、60年代以前はキャブ(キャブレター)仕様車なんですよ。キャブ仕様車が私は好きなんです」

 中でも芳野さんが愛してやまないのが、トヨタの名車「2000GT」である。「私が最初に2000GTの新車を買ったのは、トヨタにいる時でした。給料が2万円ほどでしたが、230万円ぐらいした。これは絶対に手に入れなきゃダメだって信じていたからです。親からなんとか借金してね」。まずは、その足回り系に惚れたと芳野さんは言う。「トヨタが当時の最新・最高の技術をこれでもかと用いて、手間暇かけて完成した。ボディーもハンドメイドでしたから」

ダイハツの三輪自動車ミゼットMP5型。一昔前の酒屋
などの店先を写した写真には、必ずミゼットがあった

 当時の高級車の共通項として、材質の良さがあったが、2000GTも、もちろん同じだった。頑丈な鉄を使って作られていたのだ。その分、車体の重量もしっかりあったが、それによってもたらされる比類なき重厚感が、車全体から湧き上がっているようだった。

 さらに、2000GTは、マニアをうならせる魅力をふんだんに身にまとっていた。「まずは排気音だね。キャブレターの腹に響くような音がたまらないんだ」。当然のようにマニュアル車だが、個体によって癖が強く、トランスミッションのギアが入りやすいのとそうでないものがあった。そこが男心をくすぐった。

通称ハコスカ2000GTのインパネ(インストロメントパネル)。絶妙に配置され視認性も十分に確保された計器類

「自分の所有するこの車は、自分以外は操れないという優越感があったんだ。そこいらの、わからんちんあたりには、乗りこなせないだろうと。コイツは、俺だけの車だって言う、所有欲を満たす車でもあったんですよ」。「でもね」と芳野さんは苦笑いを浮かべる。

「こういうヴィンテージものは、女性からは嫌われるんです。隣に乗れって言っても、『(排ガスが)臭い、(エンジン音が)うるさい』って、だいたい言われるよ」。しかも、暖房はあるが冷房はついていない。夏は厳しいと、芳野さんは口を曲げた。

当時のトヨタ車にしては、流線型がきれいだと芳野さんが評するセリカリフトバック。「ムスタングが流行ったけど、これは和製ムスタングだね」

「暑い時には、気合を入れてドアを開けないと、車内に入れないよ。特にここ数年の夏の暑さはひどいからね。あとオーバーヒートも気をつけないとならないんだ」。厄介な車だが、離れられないと芳野さんは笑う。

「手放せない魅力が2000GTにあるのは紛れもない事実です。一種の中毒だね。男目線で言えば、女性の宝石と一緒なのかな。なんでそんな石ころが何百万円もするんだってなるでしょう? 全く同じで、そんな古い車がなんで、1千万円以上するの? ってことですよ」

店の外観の一番目立つ場所に、2000GTの姿が誇らしげに描かれている

 ショールームから少し離れたヤードには、2000GTをはじめ、セリカリフトバックやハコスカ(3代目スカイライン)など、車好きが身を震わせて喜ぶ往年の名車が眠っている。それらはまるで、現代の道路を疾走する時を、今か今かと待っている野獣のようにも見えた。

びんてーじ・かー・よしの
横浜市神奈川区片倉1-2-2
📞045・491・7911
営業時間:午前9時〜午後7時
定休日:なし
http://www.vintage-yoshino.com/
文・今村博幸 撮影・柳田隆司