大正ロマンいっぱいのアンティーク店

 東京蛍堂は古物商だから、言うまでもなく古いものを買って、それを売るのが商売だ。ただ、インターネットで買って横流しするようなことはしたくない。数年前から断捨離という言葉が使われ、捨てられてしまう古いものは全国に転がっている。それらを求めて、全国を駆け巡る生活が続いている。「1967(昭和42)年製のトヨタのパブリカを直しながら乗って、現地に行き、好きなものを食べて好きな人に出会う。そして好きなものを買い取る。車のガソリン代だけが僕の取り分だと思って、週の半分は旅に出ています」。持ち帰ってきて、磨いたり整備したりする時間の中で、古いものがどんどん好きになっていく。本当にいいものは嘘(うそ)つきな大人より、よっぽど正直だと稲本さんは言う。「ある時、買い取った時計の文字盤を開けたら、なかに『時を待ちなさい』と書いてあったのも不思議な経験でした」

カラフルな小ぶりのバッグは和装にマッチするように見えるが、洋服にも合わせても面白い

 店に並ぶのは、ファッションを中心にした、あらゆる道具たち。自分の好きな世界、衣装、自分の好きな景色と、理想の女性像や男性像に近づけるための服や小物、道具などオールジャンルで売っている。「服は着て、道具は使ってこそ価値がある。僕が皆さんに言いたいのは、自分の故郷に帰って、タンスや蔵があれば中をあらためて見てほしいということ。モノが捨てられる現場を見ていると、いつもいたたまれない気持ちになるもんですから」。稲本さんは経験してきた仕事から、深くて広い技術や知識を身につけてきた。「今度はそれを他の人たち、特に若い人たちに還元したいと思っています。2011(平成23)年にこの店をオープンした時から、不思議な出来事がたくさんありました。考えたら、結局はその不思議な出来事も、多くは人との出会いでしかないんですよね」

パッと見なんの店かわからない凝ったエントランス。ドアにさりげなく帽子をかけてあるあたり、稲本さんのセンスの良さを感じる
 そもそも、人との出会いが一番不思議だ。出会った理由は誰にもわからないし、偶然なのか必然なのか答えも出ない。でも、東京蛍堂には、ヒントがきっとあるはず。そんな気がしてならないのだ。その答えを探して、東京蛍堂に足を運んでほしい。答えが見つかるか否かは別にしても、必ずや、すてきな出会いが待っている。

とうきょうほたるどう
東京都台東区浅草1-41-8
📞03・3845・7563
営業時間:午前11時~午後8時
定休日:月、火(祝日の場合営業)
http://tokyohotarudo.com/

文・今村博幸 撮影・柳田隆司

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