大正ロマンいっぱいのアンティーク店

東京蛍堂(東京・浅草)

retroism〜article17〜

 浅草のとある細い路地の先にその店はあった。店主の稲本淳一郎さんは心ある人物で、大正ロマンを思わせる古物もろもろを商う。「ある時、店の中で涙を流しながらたたずんでいるおじいさんがいたんです。齢(よわい)90歳とおっしゃっていました。泣いてる理由を尋ねると、『昔けんかばかりしていた親父と仲直りができたような気がする』とおっしゃったんです。こんなこともありました。小さな女の子が、商品を眺めながらぼーっとしている。そしてぽつりと言うんです。『懐かしい』って。なぜかは分かりませんでした。もしかしたら、誰かがどこからか蘇って来て、彼らにあいさつしてくれたのかもしれません」

店を借りた時には板で覆われていた半地下の食料庫。正面のステンドグラスは愛知の遊郭にあったものをそっくり移した

 大正時代からあった野口食堂の従業員宿舎兼食料貯蔵庫だった跡地が「東京蛍堂」として生まれ変わった。この場所を借りる時から、稲本さんは不思議な縁(えにし)を感じていたと言う。

大正時代を思わせる着物や帯などを、多くそろえる

 最初は庶民的な浅草という街で店を開きたいと考えていた。物件を探していると、ポルノ映画館の上が空いているというので、それはそれで面白いと借りることにした。ところが、先方の一方的な都合で、その約束は反故(ほご)にされる。そのわずか1週間後に、まだ「表に出ていない古い物件」があると言われて紹介されたのがこの場所だった。クモの巣だらけの物件は、いわくありげな古い館といった感じだった。「館の番人として雇われたんですかね」。そう言って稲本さんは微笑(ほほえ)んだ。

店主の稲本淳一郎さんは、様々な仕事を経験した後、この店にたどり着いた。話していると彼の心の美しさがよくわかる

「いいものは普遍的につながっている」。それが、稲本さんのポリシーだ。例えば、Aという古いものがあったとする。親子三代がいると、おばあちゃんはAを使っていた。お母さんは当然のように家にあるモノとして受け入れる。でも、若い娘は何これってなる。そうやって、親から子へと受け継がれていく。そんなモノを売りたいと稲本さんはいう。しかも、そのAという古くから存在するモノは、自分のルーツを教えてくれるというのだ。

ユニークな形のランプが天井からぶら下がる。壊れているものは極力直してから販売するという

 この店を開くまで、稲本さんはさまざまな仕事に就いた。今思えば、それはまさに自分探しの旅だった。「自分のルーツを知りたくて、いろいろな世界に飛び込んで、ヘビーメタルのバンドを組んでみたりもしましたが、全然しっくりきま
せんでした。そんな時に、この場所に出合ったんです」。ここなら、昔から脈々と続く文化を吸収できると稲本さんは考えた。なぜなら、建物自体に歴史的な事象がたっぷりと染み込んでいると感じたからだ。「崩れる前に、この場所で仕事がしてみたいと心の底から思いました。ファッションを中心に、あらゆるものを網羅しながら、古い日本を知ることが自分の目的でもあります」

迷路のように入り組んだ店内は、宝探しに来たようだ。歩くだけでも興奮を抑えられない。メガネなどの小物から洋服、和服など商品はさまざま

 東京蛍堂は古物商だから、言うまでもなく古いものを買って、それを売るのが商売だ。ただ、インターネットで買って横流しするようなことはしたくない。数年前から断捨離という言葉が使われ、捨てられてしまう古いものは全国に転がっている。それらを求めて、全国を駆け巡る生活が続いている。「1967(昭和42)年製のトヨタのパブリカを直しながら乗って、現地に行き、好きなものを食べて好きな人に出会う。そして好きなものを買い取る。車のガソリン代だけが僕の取り分だと思って、週の半分は旅に出ています」。持ち帰ってきて、磨いたり整備したりする時間の中で、古いものがどんどん好きになっていく。本当にいいものは嘘(うそ)つきな大人より、よっぽど正直だと稲本さんは言う。「ある時、買い取った時計の文字盤を開けたら、なかに『時を待ちなさい』と書いてあったのも不思議な経験でした」

カラフルな小ぶりのバッグは和装にマッチするように見えるが、洋服にも合わせても面白い

 店に並ぶのは、ファッションを中心にした、あらゆる道具たち。自分の好きな世界、衣装、自分の好きな景色と、理想の女性像や男性像に近づけるための服や小物、道具などオールジャンルで売っている。「服は着て、道具は使ってこそ価値がある。僕が皆さんに言いたいのは、自分の故郷に帰って、タンスや蔵があれば中をあらためて見てほしいということ。モノが捨てられる現場を見ていると、いつもいたたまれない気持ちになるもんですから」。稲本さんは経験してきた仕事から、深くて広い技術や知識を身につけてきた。「今度はそれを他の人たち、特に若い人たちに還元したいと思っています。2011(平成23)年にこの店をオープンした時から、不思議な出来事がたくさんありました。考えたら、結局はその不思議な出来事も、多くは人との出会いでしかないんですよね」

パッと見なんの店かわからない凝ったエントランス。ドアにさりげなく帽子をかけてあるあたり、稲本さんのセンスの良さを感じる
 そもそも、人との出会いが一番不思議だ。出会った理由は誰にもわからないし、偶然なのか必然なのか答えも出ない。でも、東京蛍堂には、ヒントがきっとあるはず。そんな気がしてならないのだ。その答えを探して、東京蛍堂に足を運んでほしい。答えが見つかるか否かは別にしても、必ずや、素敵な出会いが待っている。

とうきょうほたるどう
東京都台東区浅草1-41-8
📞03・3845・7563
営業時間:午前11時~午後8時
定休日:月、火(祝日の場合営業)
http://tokyohotarudo.com/

文・今村博幸 撮影・柳田隆司

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