昭和な釣り堀は変わらないのが魅力 

つり堀 武蔵野園(東京・西永福)

retroism〜article16〜

 今の人は、生きた魚に触れる機会などあるのだろうか?

 スーパーマーケットに行けば、ほぼすべての魚が、すぐに調理できる形で売られている。中には、調味料までまぶされ、自分の好みに味付けをするなどという当たり前のことすらせずに、食卓に並べられていくものもある。魚を丸々一匹買って自分でさばいて料理する人はほんの一握りだろう。子供に至っては、今食べている魚の「元の形」すら知らない、ということもあり得る。釣り堀にたたずんで、釣り上げた魚をタモで手元まで引き上げ、魚をむんずとつかんで針をはずしている釣り人を眺めていると、そんな思いに駆られてしまう。 

口をガッと開いたジョーズが釣り師を迎える。EXILEのMVで使われたものをそのままもらって残した

「昔に比べて、小さい子供たちが友達と連れ立って釣りをしにくることも少なくなりました。こういうところで魚に触れたり、年上のお兄さんに釣り方を教わったり、もちろん僕たちおじさんが教えてもいいんですけど。そういうことが大切だと思うんですけどね」

釣り上げたコイ。大事そうに手に乗せる釣り人の優しさが伝わってくる

 釣り堀「武蔵野園」の3代目青木大輔さんは少しだけ寂しそうに目を伏せた。生まれた時から釣り堀で育った青木さんには、歯がゆい思いもあるに違いない。「でもね」と青木さんは続ける。「町会に育成委員会があるんですが、夏休みに小学生を集めて、年に2〜3回ぐらい釣り大会を開いてくれます。多いと150人とか200人ぐらい集まる時もあります。子供たちは本当に楽しそうですよ。付き添いの大人の方が楽しそうな時もありますけどね。あとは、週末なんかは、家族連れも来てくれますよ」

周囲は自然に覆われているため、鳥や昆虫もたくさんやってくる

 釣り堀自体は、創業からほぼ変わっていない。先代までは、大きなポンド(池)が三つあった。ヘラブナとコイ、金魚に分かれていたが、今はその池のひとつに、蓋(ふた)をかぶせて周囲に透明のビニールを張った食事処になっている。「できれば、あまり変えたくないんですよ。昔あったいいものを、子供たちにも知ってほしいから」。ビニールを張った食事処は、手作り感満載だ。「あまり近代的にはしたくないんです。だからあえて手作り感のある、昭和を残した形でやっています。モダンだったり綺麗(きれい)にするのではなく、素朴な感じがうちの味だと思ってますからね。あとは、これを世の中がどう判断するかです」 。そして今後、これを良しとするのか否かは、これからの子供たちが決めることである。このレストラン、地元の人にも評判がいい。犬の散歩の途中による人や、草野球の帰りに、ビールを飲んで帰るお父さんたちも少なくない。「3年ほど前までは、エアコンもなし、ストーブは薪(まき)ストーブでした。そのほうが風情があっていいと思ってました」

「武蔵野園フードランキング」で一番人気を獲得したオムライ
ス800円は、昔ながらの味。思わずガツガツ食べてしまった

 さすがに、このところの猛暑や寒さに対応するために、エアコンなしではちょっと厳しい。「夏も扇風機だけでやってたんですが、汗をだらだら流しながらご飯食べてるお客さんの姿を見ると、申し訳ないなーと思ってね。冷房を入れたら、お客さんも喜んでくれました。でも、基本的には、昔ながらの形を残していきたいし、残していくつもりです」。どんなことでもそうだが、変えずに残すのは容易なことではない。ただ、頑張って残したことで、楽しみがあるのも事実。一番うれしいのは、昔、釣りをしにきていた子供たちが、大人になって会いにきてくれることだと青木さんは言う。

食事処そのものも手作り。数年前に空調が入って四季を通して快適に過ごせるようになった。食事だけをしにくる客も少なくない

「久しぶりこっちに帰ってきたから寄ったよ、なんて言いながら、顔を出してくれる人も多いんですよ。あと、元横綱の若乃花、貴乃花も子供の頃よく遊びにきてました。今でも年に何回かは顔を出します。『あー、やっぱりいいねー。昔の感じが変わってなくていいね』って言ってくれますよ」

入り口には、飲み物やたばこ、ガチャガチャや忍者姿の大きなポップコーンの自販機などが並ぶ。たばこの自販機にはゴールデンバットも
 緑多い公園の中にあって、時折気持ちのいい風が頬をなでていく。池の向こうに見えるサワサワッと揺れる木々の葉っぱを眺めながら、青木さんは言った。「立地的には、自然の中にある最高の場所です。誰もが心安らげる場所であり続けられたらいいなと思っています。いつまでもね」と、青木さんは涼しい顔で最後にそう言った。

  都会のオアシスは釣り人たちの心を癒やし続けている。

つりぼり むさしのえん
東京都杉並区大宮2-22-3 和田堀公園
📞03・3312・2723
営業時間:午前9時~午後5時
定休日:火
文・今村博幸 撮影・伊藤千晴

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