笑顔咲く、ハマの癒やし系喫茶店

モデル(横浜・石川町)

retroism〜article14〜

 入り口のドアの前に立つとふと懐かしい気持ちになる。若い頃、友達または恋人と入った喫茶店と同じ匂いが漂っているからだ。30年以上の歳月を経て旧友と再会したかのような気分になり、入店する前から充足感でいっぱいだ。

創業当時からある、数字がたくさん並ぶ「これぞ」レジ
スター。「古いけど、こわれないのよねぇ」と白井さん

 時とともに物事は変わる。そこにあらがって変えないように努力をする人たちもいる。変えちゃいけない。変えない良さもある。しかし、ここ喫茶「モデル」には、変えたくても変えられない事情があった。席を仕切るパーテーションは、一つひとつレンガが積み上げられている。だから、46年前、店が開店してから内装が変わらない。変えようと思ったら、店を壊すしかないのだ。

柔らかい光が店全体に充満する店内は、心の底から寛げる。流れる時間もゆったりだ

 その内装は業者に一括して頼んだ、と「いちおう代表」の白井みどりさんは笑顔で話す。「あたしたちの家族を見てもらって、あたしたちに合う、横浜っぽいお店を作ってって注文したのよ。そうしたらこんな店ができたの」。完成したのは、落ち着きはあるものの、明るく横浜らしい店だった。否定的な言葉は、創業者である親の雪江さんや共に店に立つ姉の洋子さんからも、客の間からも聞いたことがない。「横浜には、レンガのイメージがあるらしいのよ。だから、いっぱい使ったみたい。これタイルじゃなくて、一つひとつ積み上げてあるの。手間がかかってるのよ。いい時代だったんですかね」

壁にかけてある絵は、みどりさんの弟で
 り画家の卓(たく)さんの作品。ひまわりを
 思わせるテーブルとも絶妙にマッチしている

 テーブルの天板は、ひまわりをイメージした特注のイタリアンタイルを使用。そう言われて店内を見回すと、レンガもテーブルも、そして銅製のライトから落ちる光もオレンジ系だ。落ち着いていながらどこまでも明るく感じる。「あたしたちを見て、ひまわりをイメージしたのね。よくしゃべるしよく笑いうからかしら」。そう言って、白井さんは元気よく笑った。

話をしてくれた白井みどりさん。笑顔が素敵なお姉さまだ

 コーヒーの香りがふわりと漂う店内は、心底寛げる。理由はいくつかありそうだ。まず、ソファーが低めで、体が沈み込む感じが安らぎを生む。さらに、レンガのパーテーションから感じる息遣い。シーリングライトからは柔らかい光が降り注ぐ。そして何より、最近のよくある店が無意識のうちに放ってしまう「よそよそしさ」がまるでない。だからと言って押し付けがましくもない。ちょうどいい距離感が、店全体に漂っているのだ。「みなさんそう言ってくださるけど、理由はわからないわね。でも、働いてるあたしたちのほうがのんびりしてるからじゃないかしら。飲み物や食べ物を出した後は、私たちも端の席に座って、おしゃべりしちゃいますしね。悪く言えば、お客様をほったらかしです。かしこまってレジなんかに立たれたら、やっぱり落ち着かないでしょ」。みどりさんが微笑んだ。

モデルオリジナルのアイスコーヒー400円。見た目はごく普通
だが、味も香りも深い。夏はもちろん、冬でも飲みたくなる

 そんな落ちつける店でぜひ試してほしいのが、アイスコーヒーだ。「当店オリジナル」と謳(うた)われたコーヒーは、香り高く、後口さわやかで程よい苦み。どこの喫茶店もまねのできない味に仕上がっている。「秘密が二つあるのよ」。いたずらっぽい目で白井さんが言った。「別に企業秘密とかそういうのじゃないけど、他ではやってないことを、ふたつだけやってるの」。ニヤニヤする白井さんは、とてもチャーミングに見えた。「昔、バーテンダーがいたことがあって、彼が教えてくれた作り方なの」。本当においしいと言うと、不敵な笑いとともに、「ありがとうございます」と頭を下げた。「普通の喫茶店では、あまりやってないけど、二つ入っているものがあるの」。さらに挑発的に、みどりさんが言葉を重ねた。その答えを知りたくて、さらに質問すると言葉を濁した。

ハムサンド450円は、レタスときゅうりのコンビネーションが楽しい。なんだかほっとする味

 店の中で、変わらないものがもう一つある。前面に数字のボタンがたくさんついたレジスターだ。これは古い。「48年前からあります。全然壊れません。このレジのおかげでうちでは全部内税なのよ」。 最初の頃は直しに来てくれる人がいたが、今では直せる人がいない。「これが若い子に人気でね。面白い、かわいいって言われるのよね。どうしてこんなに数字があるのって聞かれるから、いちいち説明しなけりゃならないの。一、十、百、千、万よって。そこでお話ができるのも、あたしたちの楽しみの一つかしらね」

入り口の周囲には、なぜかたくさん看板があり、そのひとつがコレ。シンプルだが印象的。見とれながら4段の階段を上がって店内へ

 母親の雪江さんも、時々、店に立つ。「まあ、いつまでできるかはわからないけどね。でもここは雪江ママが好きで作った店。だから簡単に閉めるわけにはいかないわね」

 これからも絶品のアイスコーヒーが楽しめそうだ。

もでる
横浜市中区吉浜町1-7
📞045・681・3636
営業時間:午前10時~午後5時
定休日:不定休

文・今村博幸 撮影・柳田隆司

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