歴史刻む老舗バーの柱時計

 ところで、そんな空間の中でぜひとも飲んでほしいのは、服部さんこだわりの生ビールだ。こだわるのには理由がある。彼が20歳そこそこの頃に、京急久里浜のちょっと小洒落(じゃれ)た鳥料理屋で飲んだビールの味が忘れられなかったからだ。「生ビールってこんなにおいしいものなんだって、その時初めて知りました。どんな注ぎ方をしているんだろうって、様子を伺っていたんですが、結局その時にはわかりませんでした」。どうしたらビールをおいしく注げるのか、服部さんはバイトをしていた店で、練習を繰り返した。

3日に一度ほど時計のネジを巻くのにつかわれる鍵

 突然その日は訪れた。一家言ありそうな女性客の一言が、全ての始まりだ。女性は言った。「泡までおいしいビールを頂戴(ちょうだい)」。チャンスだと服部さんは思った。そして、今まで考えていた自分なりの方法で、ビールを注いで出してみたのである。 女性客はこう告げた。「本当に泡までおいしいわ」と。その言葉が、M‘s Barのビールのおいしさの原点になっている。「完全に我流です。荒い泡で蓋をしながら7分目弱まで注いで、ある程度その泡をバースプーンで取り除きます。完全にとってしまわずにビールに蓋をした状態で、最後にきめの細かい泡を乗せます。バーだからこそビールを飲んでほしいんです」。完全な我流だから、ここのビールはここでしか飲めないことになる。

馬車道に入って見上げると、赤いネオン管が目に入る。木の葉が落ちる冬には根岸線からも見えるらしい

 店を訪れたらぜひカウンターに座って、背中越しに柱時計のカチカチという音をBGMに極上のビールで至福の時を過ごしてほしい。 虜(とりこ)になること請け合いだ。

えむずばー 
横浜市中区住吉町5-51 馬車道会館ビル3F

📞045-662-9029
営業時間:午後6時~午前2時
定休日:不定休

文・今村博幸 撮影・柳田隆司

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コメント

  1. 西村コウシ より:

    柱時計の向かいの壁にはイングリットバーグマンもいるしね😁

  2. 編集長 より:

    レトロイズム(retroism visition old,learn new)へのアクセス、ありがとうございます。
    そういえば、往年の大女優イングリッド・バーグマンも、
    M’s Barの壁に溶け込む「華」の一つですよね。
    店のセンスの良さを感じさせてくれます。

  3. たむき より:

    マスターのビールは世界一美味しいです。

    • 編集長 より:

      レトロイズム retroism visiting old, learn new にアクセスありがとうございます。
      こちらのビールはサッポロの生ですが、他で飲むサッポロ生とは、
      確実に違う味で飲ませてくれます。つまり世界で一番という言い方は、
      決して間違いではないかもしれません。