ブレない昭和な空間は客ファースト

    信濃路にマニュアルはない。「先輩が後輩を助けながら」が信濃路のオペレーションの基本である。つまり、いい悪いは別にしても、ありきたりの接客をされることはない。時に新人の対応に首をかしげることもあるかもしれないが、それをカバーする人間が必ずいる。マニュアルの接客にうんざりしている人でも、ここなら、ほっと癒やされたような気持ちになれる。同時に、信濃路で飲む場合には、客も大人にならなくてはいけない。大げさに言えば、人間力を鍛えられる飲み屋であるとも言えるのだ。そんな接客や味を求めて、さまざまな人が来店する。24時間開いているのだから、ありとあらゆる「人種」が来るのもうなづける。混雑時には特に、悲喜こもごもの人間ドラマが各テーブルで繰り広げられている。

 「でも、そこに立ち入ることはほとんどしません。私たちの接客の基本は、変に深入りしないことです。名前とか何をしている人か、それはどうでもいいことです。ただ、いつでも便利に使ってくれたらそれでいい。あとは、私たちが一生懸命に、いい時間を提供するだけです」


 店長の松本さんが店を仕切る。「従業員が
  よくやってくれるので店が回っているんで
  すよ」と、「おかげさま」の心を知っている人物だ

 考えてみると、昭和の居酒屋では、「男は黙って酒を飲む」的な人がたくさんいたし、それが美徳でもあった。もちろん友達同士でワイワイ飲んで食べるのも楽しいが、森の中に立つ一本の木のように酒を嗜(たしな)むのも悪くない。信濃路は、そんな飲み方が似合う場所でもあるような気がしてならない。見かけも内容も、昭和をほうふつとさせるが、意識しているわけではないと店内を見渡しながら、松本さんは言う。

 「改装できるならしたいと思ってます。トイレも旧式ですし、使い勝手を考えれば、手を入れるべき場所はあります。ただ、今風に変えるつもりは毛頭ありませんね。やはりこの雰囲気が好きで来てくださるお客様がいらっしゃると思うし、昭和の居酒屋を続けますよ」

JR鶯谷駅北口を出て右手を見ると見えてくる信濃路の入り口。メニューの多さといい24時間営業といい、懐の深い居酒屋と言えるだろう
    話を聞いていると、松本さんが店長として、客のことを第一に考えているのがよくわかる。いかに客においしく楽しく快適に、過ごしてもらいたいかを目指している。つまり、筋が一本通っているのだ。そんな筋の通った居酒屋に集う客たちは、今宵も昭和に酔っている。

しなのじ うぐいすだにてん
東京都台東区根岸1-7-4

📞03・3875・7456
営業時間:24時間営業
定休日:年中無休

文・今村博幸 撮影・岡本央

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