よもやま話に花が咲く下町の極楽浄土

 「今となっては、私も残して良かったと思ってますよ。やっぱり風呂屋に番台がないと様にならない。お客さんとのコミュニケーションも、この番台があればこそだからね」。実際に、本田さんが番台に座っていると、常連が入り口付近の椅子に座って、体を乾かしながら長々と話し込む、という状況も少なからずある。

 「冷蔵庫の中にビール置いてるけど、4〜5本飲んじゃう人もいるよ。まあ、風呂上がりのビールはうまいしね。すっかりいい気分で帰っていくね」。 「風呂上がりのビール」という使い古されたフレーズが、なぜか新鮮に聞こえた。この言い回しが、手垢(あか)も寄せ付けないほどの魅力を秘めているからに違いない。

木板の鍵が残る下駄箱。好みの数字が空いているかどうかも楽しみの一つだった

 番台の役割がもう一つあると、本田さんは言う。「風呂場で気分が悪くなったりする人も出る。トラブルだってなくはないです。番台にいれば、私たちがすぐに対応するすることができます」。何かあったら助けてくれるし、何とかしてくれる安心感は、昔ながらの銭湯を営む人に備わっている人間力があればこそなのだ。

番台では、なじみ客と話し込むことも。親しみやすい笑顔で客を迎える本田さんも、荒井湯の人気を支える

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