懐かしくも新しい秩父のパイオニア

パーラーコイズミ (埼玉・秩父)

 retroism〜article9〜

  秩父の人たちは仰天した。時は1967(昭和42)年。神社仏閣も多く、札所巡りで名を馳(は)せたこの土地に、まるでパリのパティスリーのような外観の店ができたのである。しかも名前は「パーラーコイズミ」だ。

秩父神社の前から続く番場通りにあるパーラーコイズミ 。かつて上野や銀座にあった喫茶室を思い出させる華やかな外観が印象的だ

 主人の小泉建(たけし)さんは、東京で修業を積み地元に戻って店を開いた。店名にはパーラーをうたった。もちろん秩父では初だった。「おいしいコーヒーやスパゲティ、パフェを地元の人たちに食べてほしかったんです。そのためには、パーラーという呼び方が自分の中で一番しっくりきました」

バラのカップの美しさもさることながら、その下に当然のように並べられているタバスコとパルメザンチーズに妙に納得

 しかし当初は、苦難の連続だった。まず、材料の調達がままならなかった。「正直言うと、あの当時、秩父でパーラーができるか不安はありました。スパゲティの麺すら仕入れるのは難しかったし、生クリームなんて牛乳屋でも知らないような時代でしたからね」。スパゲティの麺も、パフェに使うアイスクリームや生クリームも、東京で働いていた頃に取引のあった問屋などを回って頼み込み、やっと調達できるような有様だった。もうひとつ大変だったのは、客がメニューを理解してくれなかったこと。「フラッペってなに? パフェって?と毎日のように聞かれましたよ」

渋いフローリングの床とレンガを多用し、統一感のある店内は、秩父にいることを忘れる。落ち着ける空間を作り上げているのが見事だ

 ほどなくして、店は客でいっぱいになる。「食事ができたのが大きかったと思うんです。スーパーでも弁当は売ってなかったし、コンビニもない。だからランチ時になると、食事をしに来てくれました。夕方はパフェを食べたり、コーヒーを飲んだり。その頃になると、パフェがどんなものなのか、わかってくれるようになりましたからね」。この頃になると忙しさは加速する。昼時や夕方になると、客が店の前に並ぶことも少なくなかった。「私と女性従業員の2人でやってましたから。しかも作るのは私一人。てんてこ舞いでした」。当時を懐かしむように小泉さんは笑った。「でもその分、やりがいもありました。自分がパイオニアだって自負もありましたからね」

ナポリタンスパゲティ(850円)は、オリジナルのドレッシングがかかったシャキシャキの野菜サラダとコーヒーゼリーのデザートがつく

    開店当初から人気を集めたメニューの一つが、スパゲティである。「ミートソースも仕込みからやりますが、ナポリタンはうちの看板ですし、自信もありますよ」。イタリアンソースと小泉さんたちが呼ぶソースは、手間がかかっている。みじん切りにしたニンジンと玉ねぎなどをよく炒め、調味料とケチャップで煮込んだオリジナルだ。食べてみると、焼けたケチャップの香ばしさと、マッシュルームの歯触り、ピーマンのほろ苦さ、玉ねぎの甘さなどが、絶妙のハーモニーを口の中で奏でる。特に、甘みと酸味に奥行きがあるケチャップは、一度食べたら忘れられない深い味に仕上がっている。正真正銘の「昔ながらの」ナポリタンだ。


 淳さんは、イタリアンレストランで修業
 積んだ。「僕が作っていた料理とは全く違い
 ますが、その分かえって面白みがあります」

  昨年から店に入った息子である淳(じゅん)さんは、小泉さんにとって心強い存在だ。「イタリアンの店にいたんですよ。本当は、別に店を出させようと思ったんですが、そうすると私が楽できないのでね」。本気ともジョークともとれる言い方だが、淳さんの腕を認めていることに違いはない。小泉さんが築いてきた味に、今どきのイタリアンの技術が加わったことで、新生パーラーコイズミの味が楽しめることになった。

昔の写真を小泉さんが見せてくれた。店は3回ほど改装されている。時代を経ても、パーラーであり続ける熱意が話から伝わってくる

 パーラーコイズミの真価は、ナポリタンなどの原点の味が、しっかりと受け継がれているところである。親から子へ、歴史に立脚するパーラーコイズミは、懐かしさと新しいものを上手に融合しながら、秩父の食文化を担っているのだ。「昔からあるメニューに関しては、味がぶれてないかを店の者全員でチェックします。いい加減なものは出せませんからね」

客を迎えるガラスの自動ドアは、さりげなくおしゃれだ。緑が飾られているのも気持ちがいい

 かつて最先端だったことが、懐かしいものへと変わるのは、歴史を経てきた証しである。パーラーコイズミには、外観に惹(ひ)かれて店に入る客も多いはずだ。そんな彼らも、一度料理を口にすれば、「秩父生まれのパーラー」の原点である味がしっかりと受け継がれていることに膝を打つことだろう。看板に偽りなしだ。

ぱーらー こいずみ
埼玉県秩父市番場町17-13
📞0494・22・3995
営業時間:午前10時~午後8時
定休日:第3木(臨時休業あり)
文・今村博幸 撮影・柳田隆司

スポンサーリンク

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする