古くて新しい谷中のランドマーク

カヤバ珈琲(東京・谷中)

retroism〜article5〜

 心地よい早朝の日差しが谷中の街を優しく包む頃、木でできた雨戸を開けることから、「カヤバ珈琲」のマネージャー・成瀬真理子さんの一日が始まる。

「「朝来て最初に空気を入れ替えます。今の生活の中で雨戸を開ける作業は、ほぼ消え去っていますよね。私も祖母の家にしかなかった。自分の実家にはありませんしね」。窓の鍵はねじ式だ。建物が建てられたのは1916(大正5)年。構造や設(しつら)えもほぼの当時のまま。店の創業は38(昭和13)年である。

手前のルシアンは、コーヒーとココアを合わせた懐かしい
味。奥のタマゴサンドはふわふわの卵焼きが秀逸。各500円

 カヤバ珈琲を構成するパーツには、古くて懐かしいものがたくさんある。「2018年にリノベーションしたときに、上の梁(はり)が見えるようにしました。テーブルや椅子も以前のまま。極力昔からあるものを使っています」。ソファーのようなフカフカの椅子は、目線が低く妙に落ち着く。旧カヤバと同じだ。古くても爽やかな空気が充満しているのは、建物が南東の角にあって、日当たりも風通しもすこぶる良いからだろう。天気のいい日には、一日中、光が店内に降り注ぐ。「朝1回窓を開けますが、春とか秋の気候のいい時には、日中でも窓を開けて外の風を入れます。自然の風の方が、エアコンよりも気持ちがいいですから」

  マネージャーの成瀬真理子さん。落ち着き ある笑顔で店を運営。
店内に漂う「温故知 新」を感じながらの対応が客の共感を呼ぶ  

 ところで、カヤバ珈琲には、喫茶店にあるはずのものがないことに気がつく。音楽が流れていないのだ。「かけてた時期もあると聞いていますが、今は、特にかけていません。カップをソーサーに置く音や人の会話が聞こえた方が喫茶店らしいんじゃないかと思って。それと、私自身、ここにどんな音楽が合うのかちょっと決めかねているのもあります」。静かな店内には、本を読んでいる客が、ページをめくる音がパラリと聞こえることもあるのだという。

2階はちゃぶ台と座布団、漆喰の壁とすりガラス。絵に描いたような昭和な空間が広がっている

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