よもやま話に花が咲く下町の極楽浄土

荒井湯(東京・本所)

retroism〜article2〜

 銭湯は現世における極楽浄土である。

 湯船に浸かればいい気持ち。石鹸(せっけん)やシャンプーはいい匂い。お湯の中で手足を伸ばせるのは、家庭の風呂では味わえない醍醐味(だいごみ)だ。そのリラックス感たるや半端ではない。風呂で話すと声が響く。エコーがかかって歌いたくなる。つまり楽しい気分になれるのだ。さらに、たった470円でのんびり、ゆったり過ごせば、忙しさで消耗した神経は確実に癒やされることだろう。気候が良ければ脱衣場の外に出て、涼んでからまた体を温めるのもいい。二度寝にも似た快感が味わえるのだ。もちろん体はきれいになる。心もリフレッシュされる……。

冨嶽三十六景の中の神奈川沖波裏が描かれた男湯。風呂の種類は、ジェットバス、低温風呂など4種類の浴槽がある

 そんな銭湯の顔というべき存在が番台である。「風呂屋の番台」。そこは聖地であり、座る人は聖人だ。だから、番台に誰が座っていようが、老若男女誰でも恥ずかしげもなく裸になれる。「荒井湯」は、番台が残っている数少ない銭湯の一つ。主人の本田義勝さんが、残した理由をこう話す。「最近流行(はや)りのフロントに変えようかと思ったこともあります。でも、ウチのばあちゃんが強く反対して、残すことになったんです」。おばあちゃんは、そこでの会話を楽しんでおり、生きがいでもあった。

シャンプーはメリット、石鹸はホワイト、そしてカミソリが、銭湯では昔からずっと売られている定番グッズ

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